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□想い合ってたのは、多分互いにそれ以前
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木々が色付く頃。生徒会の仕事が長引いてしまい、帰路に着く頃には、すっかり日も暮れていた。
「遅くなっちゃったな」
白い息と共に吐いた独り言は、寂しく闇に溶けて消えた。
瞬間、木枯らしが、襟足を吹き抜けて、思わず首を竦める。
「寒っ」
呟きながら空を見上げると、既に幾つかの星が綺麗に瞬いていて、透き通った冷たい空気の所為か、余計に寂しさを増させた。
去年の今頃は、隣に必ずと言っていい程あの子が居て、寂しいなんて、想ったことはなかったのに。
否。本当は、ずっと寂しかった。でも、背中を押した本人がそれじゃ情けないから。強がって、ひたすら生徒会の仕事に没頭して、気付かない振りをしていた。苦ではなかったし、充実もしていたから、寂しさは上手く蓋をされていた。
それが、今更になって。木枯らしの冷たさと、透き通った空の所為か、素直な心が、ひょっこり顔を出してしまった。
「はぁ」
感傷的な気分に浸るのは、悪いことではないと思うけど、いつまでもうじうじしてたって仕方がない。溜め息を吐いて、気合いを入れるべく軽く頬を叩く。
よし。帰ったら、温かいココアでも飲んで、暖まろう。
…そういえば、唯は甘いココアが好きだったな。
「…重症ね」
我ながら未練がましいと、少しだけ眉間を押さえた後。寂しさが抜けきらない、どうしようもない自分の頭をコツリと叩いた。
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「和ちゃん?」
唯に顔を覗き込まれて、我に還る。
「あ、ごめん。何?」
「どしたの?ぼーっとして」
「何でもないわ。ちょっと考え事」
想いが通じ合う前の、去年の今頃のことを考えてた。なんて、恥ずかしくて言えないから、取り敢えず誤魔化しておく。
「そう?なら、いいけど」
「あら、珍しいわね。いつもはしつこく聞いてきたりするのに」
特に、何かしら悩んでいる時の唯の洞察力は侮れない。隠してるつもりでも、僅かな変化で見抜かれてしまう。
「ん〜、だって和ちゃんの顔緩んでるから、悩み事じゃなさそうだし」
「っ!?」
ほら。顔に出してりつもりは微塵もないのに、あっさりと。
去年寂しかったのが嘘みたいに、今は隣に唯が居て、それだけで温かいな。なんて、考えてただけなのに。
「和ちゃんが幸せそうなら、私は何も言わないよ」
特に、それが私の隣でなら、文句などないのです。って、事も無げに唯は言う。
本当に、敵わない。
「そうね。去年の今頃は寂しかったから、今は凄く幸せだなって、考えてたのよ」
そんな彼女に触発されて、ポロリと本音を漏らすと、唯は一瞬きょとんとして、直ぐに顔を綻ばせる。
「えへへ〜。私も今の言葉ですっごい幸せな気分だよっ」
私の腕をギュッと抱き締めて、蕩けてしまいそうな笑顔で、私を見上げる。
そして。
「ねぇ、和ちゃん」
「ん?」
「さっきのは、去年の今頃から私が意中の人だったって、受け止めて良いよね?」
「…」
有無を言わせない満面の笑顔。
分かってて言ってるわよね、それ。
「…好きにとりなさい」
溜め息混じりに言いながら、恥ずかしいからいつもより少し乱暴に頭を撫でるも。
「素直じゃないなぁ」
ってあんまり幸せそうに笑うから、最終的にはいつものように優しく撫でる。
本当に敵わないな、と。小さく吐いた溜め息は、透き通った空に優しく溶けて消えた。
End
あとがき
和のキャラソン'プロローグ'を聴いてたら、こんなん湧いて出ました。
和のキャラソンは全部ツボで大好きです。声とか歌詞とか。特に、プロローグはお気に入り。