♪
□出逢えた奇跡に、ありがとう
1ページ/2ページ
11月11日午前0時。
「梓ちゃん、お誕生日おめでとう」
「あずにゃん、おめでとう〜。同い年だね」
「誕生日おめでとう、梓ちゃん」
前日に、真っ先に祝いたたいという憂の希望により、平沢家にお邪魔して、時がその日に刻んだ瞬間、いつものメンバー(憂と唯先輩と和先輩)に祝われる。
因みに、和先輩は唯先輩に誘われたらしいけど、邪魔しちゃ悪いと最初は断ったらしい。でも、私が直接大丈夫だと言って是非にと来てもらった。いつも四人でいるから、居ないとなんだか寂しい気がして。
憂の作った料理でちょっと早いパーティーをして、いつもみたいに他愛のない話をして。
今は四人がリビングで仲良く並んで就寝中。
深夜。
祝いの言葉をくれて、皆は直ぐに眠ってしまったけど、なんだか私は寝付けなくて、穏やかな寝息を発てる皆を起こさないように、こっそり布団から出る。
なんとなく、風に当たりたくて、外に出てみたけど。
「…寒」
月明かりで意外に明るい外は、思いの外寒かった。さっきまでいろいろな意味で、温かい空間に居たから余計に。
「はぁ」
まだ冬でもないのに、吐く息が白い。誕生日という特別な日だからか、不安と期待が入り雑じった変な気持ち。
溜め息混じりに、今に至るまでのことを、ふと思い起こしてみる。
唯先輩のギターに憧れて桜高に入学して、憂に出逢って惹かれて想い合って、そのきっかけを作ってくれた和先輩の温もりを最近知った。
三人の繋がりがあってこそ、今の私がある。勿論、歩んだ道の中には軽音部の皆さんや友達や家族だっているけどね。それは和先輩曰く、運命らしい。
そう思うと、何だか擽ったい。
「梓ちゃん?」
ちょっと可笑しくてフッと笑っていると不意に、後ろから声を掛けられる。
「和先輩」
振り向くと、眼鏡を外した和先輩が居て、いつもと違うその姿に、ちょっとドキリとした。
「眠れない?」
「はい、ちょっと。ごめんなさい、起こしました?」
和先輩は、軽く首を振ると。隣に歩み寄り、微笑んで言った。
「私もね、ちょっと寝付けなくて。二人を寝付かせるのは、得意なんだけど」
本当に優しい人だ。寝てたでしょ。寝息、聴こえてましたよ?なんて、言える訳もなく、優しさに甘えることにした。
「なんですか、それ」
聞くところによると、憂と唯先輩は、和先輩に抱き着くと安心して寝てしまうらしい。
「なんなら、梓ちゃんも試してみる?」
和先輩は、冗談めかして笑ってるけど。
「止めときます」
また唯先輩が奇妙な誤解を生みそうなので、勘弁して下さい。
「そう。まぁ、冗談はこれくらいにして。眠れない原因、聞いていいかしら?」
本当に冗談だったのか、私には解りかねます。唯先輩になら分かったでしょうか。
まぁ、それも置いといて。
「ただ、思い返してただけです。高校に入ってからのこと」
皆に出逢えたこと、共に歩んだ道。
触れ合って、抱き合って知った温もり。
「なんとなく、分かる気がするわ」
特別な日って、なんか思うことがあるのよねって、言われて正にその通りだと思う。
「でも、このままじゃ、風邪引いちゃうから、そろそろ戻らない?」
「そうですね。話を聞いてもらったら、なんか落ち着きました。ありがとうございます」
お礼を言って頭を下げると、そのままくしゃりと頭を撫でられて。
「良いのよ。誕生日何だから、少しは甘えてくれても」
そのまま引き寄せられて、いつかの如く抱き締められる。
「あの、こんなことしてると…」
絶対、あの人が。
「既に居るのですっ」
「私も居るよ〜」
もう居るしっ!?憂までもが。
「ってことで、解決したっぽいから、私もハグしても良いよね?」
何が、ってことで!?
「良いんじゃないかな?じゃあ、私も」
憂も同意してないで、止めてよ。って憂も来るの!?
そのまま、また和先輩に抱き着くかと思いきや、軌道変換して二人の抱き着き攻撃は此方へ。
「三人抱き着き作戦大成功っ」
「はい?」
いつかの和先輩の如く、今は私が囲まれて、何が何やらと思って和先輩を見ると、困ったように笑ってて。
「梓ちゃん、なんだか不安そうだったからって、憂がね」
「え?」
憂の方を向くと、少し恥ずかしそうに口を開く。
「和ちゃんなら、話しやすいかと思って」
「憂でも良かったのに」
むしろ、恋人なんだから憂が来るべきじゃない?
「和ちゃんとお姉ちゃんもいた方が、良いかなって思って。最終的に皆で抱き付いちゃおうかなってね」
なんだそりゃ。まぁ、憂達らしいし、温かいし落ち着くから良いけどさ。
「だったら、話し相手は私でも良かったよね!?」
なんですか、そのどや顔は。っていうか、唯先輩の場合話が逸れそうなので。
「遠慮しておきます」
「ひどすっ」
唯先輩は大袈裟にショックを受けてて、二人は苦笑してる。
「でも」
擽ったくて、暖かな貴女達に出逢えたことが、偶然なのか運命なのかよく分からない。でも今は、出逢えたこの奇跡に。
「ありがとう、ございます」
いろいろな想いを込めて小さく呟いた言葉に、皆は暖かい笑顔をくれた。