□たまには、いつもと違う温もりと
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ドライヤーを掛けつつ、優しく髪をとくその手は、意外なことに、結構心地好い。

「お痒いところはございませんか〜?」

それ、ちょっと違うと思います。

「思ってたより、上手いですね」

その言い種に、失敬なとちょっとむくれつつも、満更でもなさそうだ。

「まぁ、たまに憂の髪乾かして上げてるからね」

その名前に、ピクリと反応する自分がいる。
つい先程、誰かに甘えてる彼女を、初めて見た。

今日は、二人からのお誘いで平沢家にお泊まりすることになった。同じく誘われたらしい和先輩も一緒に。
夕飯後、平沢家独特の和やかな雰囲気を存分に味わって。先に入浴を勧められて、上がってリビングを覗いてみれば、和先輩に甘えてる憂に遭遇。
近より難い雰囲気だったから、唯先輩の部屋にお邪魔して、髪を乾かしてもらって、今に至る。

「あずにゃんの髪の毛、綺麗だよね〜。いい匂いだし」

「どうも。って、シャンプーお借りしたので、唯先輩の匂いも変わらないんじゃないですか?」

「へ?そうなの?」

鼻を直に付けて嗅がないで下さい。擽ったいんで。

「…っていうか」

「ん?」

「どういう状況ですか!?これは!?」


雰囲気に飲まされそうになったところで、取り敢えず突っ込むを入れる。

「うおぅ!?あずにゃん、落ち着こう」

何故、貴女はそんなに冷静なのか不思議でなりません。
落ち着いてられますか?幼なじみとはいえ、恋人が目の前で自分以外の人間に甘えてたんですよ。

「唯先輩は平気なんですか?」

「ごめん。私は見慣れてるもんで」

聞くところによると、憂はたまにあんな風に、和先輩に甘えるとのこと。
唯先輩は、自分の不甲斐なさを理解してるらしく、その時は和先輩に任せるらしい。

「私はさ、和ちゃんのこと大大好きだけど、憂もあずにゃんも大好きなんだよね」

なんですか。突拍子もなく。

「だから、あずにゃんにも、和ちゃんのこと好きになって貰えると嬉しい」

あぁ、成る程。唯先輩も和先輩も憂も、皆大好きで、信じ合ってるのか。そう考えると、自分だけ子供みたいで、ちょっと悔しいな。
あ、でも。取っちゃヤダよ?って、本気で心配してるのが、なんだか唯先輩らしくて、ちょっと笑えた。

「取りませんよ。それに、和先輩が揺らがないって、信じてるくせに」


「や、だって、あずにゃん可愛いからさ。私より魅力的かなと思いまして」

本当、悔しい。
こんなに真っ直ぐで温かい人が好きになった人に、嫉妬なんて。

「それに前にも言いましたが、私も憂一筋なんで」

「そっか。憂は幸せ者だね」

それは、私と和先輩に向けての言葉だと思う。
恐縮ではあるけど。それに、貴女みたいな素敵な姉に恵まれたことも、だと思うな。

「ちょっと、憂が羨ましいです。素敵な姉が二人もいて」

一瞬、きょとんとした顔をしたと思ったら。数秒後、言葉の意味を理解したらしく、唯先輩は優しく笑った。

「今なら、私で良ければ、存分に甘えるがいいさ」

そう言って嬉しそうに笑う唯先輩は、変に格好良くて、悔しいからそのまま胸に凭れ掛かった。

普段嫌と言う程抱き付かれるけど、今日は風呂上がりの所為か、いつもより温かい気がする。あっちも、こんな感じなんだろうか。
まぁ、こんなのもたまには、悪くないな。

憂とはこれでお相子、かな。


End
























あとがき
憂と和の関係に、免疫のある唯と免疫のない梓。
そんな梓を支えてくのは、唯の役目な気がして出来た駄文ですf^_^;

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