□平沢家は、今日も平和です
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ある休日。
憂に家に誘われて行ってみると、見慣れない靴が綺麗に揃えてあった。先客がいるらしい。

「和さん、来てたんだ」

憂の言葉で、それが唯先輩の恋人だと分かる。
リビングに通されて行って見ると、二人は穏やかに談笑していた。

「ただいま、お姉ちゃん。和さんも、いらっしゃってたんですね」

「今日は、憂。それに梓ちゃん。お邪魔してるわ」

「いらっしゃい、あずにゃん。憂もおかえりー」

「今日は。唯先輩、和先輩」

それぞれ挨拶を交わした後、二人は勉強中だったらしく、今はちょっと休憩中らしいので、私達は邪魔をしないように部屋に上がることに。

「私達、部屋に上がるから、ごゆっくり」

それから、部屋に閉じ籠った私達は、寄り添い合って、互いに温もりを感じながら、擽ったいような温かな幸せな時間を過ごす。
リビングの二人も、こんな感じだったなと思って、憂に話を振ってみる。

「それにしても、唯先輩のあんな幸せそうな顔、初めて見た」


部活の時、ギターに触ってたりお菓子を食べてる時も幸せそうだけど、さっきの唯先輩は、それ以上に幸せそうだった。

「お姉ちゃん、和ちゃんのこと大好きだから。二人きりだと、気が緩むんだってさ」

いつも緩んでるのにそれ以上に?とか突っ込むのは止めにした。
だって、そう言う憂だって、さっきの唯先輩に負けず劣らず、顔が緩んでる。
やっぱり、姉妹なんだな。まぁ、私の顔がこんなに緩むのは憂の前だけなんだけど。なんて思いながら、髪を撫でた。
カーテンを解放された部屋が夕陽色に染まる頃、憂が名残惜しそうに言った。

「そろそろ、夕飯の支度しなきゃ。梓ちゃんも、食べて、行くよね?」

とか、選択肢を持たせながらも、眉をハの字にして聞くのは、ちょっと卑怯だと思うけど。

「断る訳ないじゃん」

断る理由なんて、これっぽっちもないから、笑ってそう応えると、憂は嬉しそうに、気合い入れて作るねって、言って笑った。
リビングで待つように言われて階段を降りると、憂から夕飯の支度をすることを聞き、手伝おうとしてる唯先輩とすれ違った。不安要素が一つ出来上がる。
なんて、我ながら失礼なことを感じながら、同じく待つように言われたんだろう、和先輩の向かい側に腰を下ろす。
和先輩は、こうなることを予測していたのか、自前らしい本を読んでいた。流石は、幼なじみ。

「あの、和先輩」

そういえば、あんまり話したことなかったなとか思いながら、良い機会だったから、話し掛けてみる。

「ん?どうしたの?」

私が話し掛けるのは、意外だったのか、落ち着いた様子ではあるけど、少し目を丸くしていた。

「私、前から和先輩に伝えたいことがあったんです」

「何かしら?」

チラリと私の目を見て、本を閉じる。一言や二言で済ませられる会話ではないと、判断してくれたらしい。

「あの、ですね」

いざ言うとなると、少し恥ずかしい。告白する訳でもないのに。
その間、和先輩は穏やかな表情で、待っていてくれた。なんか落ち着く。不思議な人だ。
一つ息を吐いて、私は口を開く。

「唯先輩を、桜高に導いてくれて、ありがとうございます」

面を喰らった顔。
あ、ちょっと面白い。
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