□魔法にも似たその掌に、そっと口付けを
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差し伸べられたその手に触れただけで、嬉しくなって。
優しく撫でるその手に触れられるだけで、暖かい気持ちになる。

貴女の手は、私にとって魔法にも似た効果を持っている。
なんて口にしたら、貴女は笑うだろうか。

「ねぇ、和ちゃん」

「うん、何?」

それは、夕陽色に染まる教室で、図らずも二人きりになった時のこと。
部活のないその日、私は机に突っ伏して、ぼーっとしていて。和ちゃんは、自席で文庫本を捲っている。

冒頭の思考に至ったのは、本を捲る指先を見詰めていたら、ふっと湧いて出たから。

「手、貸して」

「…手?」

不思議そうに首を傾げながらも、貴女は本を閉じ素直に手を差し出す。

「えへへ、ありがと」

改めて、まじまじとその手を見詰めつつ、感触を堪能する。柔らかで、あったかい。
この手は、むしろそれを持つ貴女は、いつも私に幸せをくれる。

「唯、擽ったいわ」

見詰めながら、ついついもにゅもにゅと揉んでいたら、貴女は困ったように笑ってた。

「いつも幸せをくれるこの手に、感謝のマッサージを」

というのは、冗談半分で。ごめん。本当はただ触れたかっただけ。

「何よ、それ」


なんとなく、触りたくなっただけなんじゃない?って付け加えて、貴女は擽ったそうに笑う。
流石というか、バレバレだ。

「和ちゃんの手はね、私に幸せをくれるんだよ」

「そうなんだ。まぁ、私にとっては、何の変哲もない只の掌だけどね」

なんて、やんわり言ってるけど、その笑顔と台詞には、ほんの少しだけ、嬉しさが滲み出てる。

「和ちゃん」

いつも幸せを、ありがとう。
なんて、口には出さないで、掌にそっと口付けを落とした。一瞬だけ、その手は震えていたけど、抵抗はない。

くしゃりと、頭を撫でられる感触。
顔を上げると、少し赤らんだ優しい笑顔が、其処にあって。それだけで、満たされた気持ちになる。

ねぇ、和ちゃん。
貴女の手は、こんなにも私を幸せにしてくれるって知ってる?

そう言ったら。
そうなんだって軽く流しつつも、和ちゃんの顔は嬉しそうに微笑っていて。
それから、もう一度私の頭を撫でる。愛しいものに触れるみたいに優しく。

やっぱり、和ちゃんの手に触れられると、落ち着くし気持ち良いな。
そんなことを思いながら、幸せに浸りたくてそっと目を閉じた。


End
























あとがき
解説の通り、和の掌に(略)が書きたかったんですf^_^;
何も言わないで分かりあってる二人っていいよね(・ω<)

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