□幸せって、きっとこういうこと
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いつからだろう。
真剣に何かに取り組む貴女のその横顔に、胸の高鳴りを覚えたのは。
慈愛に満ちた優しい笑顔に、言い様のない気持ちを抱くようになったのは。。

「…唯?」

「ふぇ?」

はっと意識を取り戻した瞬間、目の前にあったのは、心配そうな貴女の顔。
そういえば、久しぶりに一緒に下校してたんだった。それで、夕焼け色に染まる貴女の綺麗な横顔に惚けて、意識が飛んでたらしい。

「どうしたの?最近、ぼーっとすること増えてない?」

それは、多分。和ちゃんを意識してるからだよ。なんて、言える訳もなく。

「いやぁ。練習のし過ぎで疲れてるのかなぁ?」

そう言って、誤魔化すと。

「音楽室からは、最近あんまり演奏が聴こえてこないけど?」

うおぅ。流石は生徒会長。しっかりチェックしてらっしゃる。

「言いたくないなら良いけど。無理はしないようにね」

言いながら、困ったように微笑う貴女の顔は、抑えていた気持ちを溢れさせてしまいそう。
でも、この気持ちを伝えたら、貴女はきっと私から離れてしまう。
不意に、澪ちゃんが作詞した曲が、頭に浮かぶ。

いつもがんばるキミの横顔
ずっと見てても気づかないよね

全くそのまんまだよ。だから、歌詞を見せてもらった時も、あんなに惹かれたのかな。ハートは苦しいくらいにドキドキしてるし。でもこの想いは、確かにマシュマロみたいだけど、コーヒーみたいに苦い気がする。

ふとした仕草とかさりげな笑顔とか、本当に深読みしちゃうよ。
私は特別なんじゃないかって。そんなこと、ある筈ないのに。

いつか目にしたキミのマジ顔
瞳閉じても浮かんでくるよ

言葉とは裏腹に、誰にでも優しく、それでいて真剣に接して。
怒ることすら、決して自分の感情を押し付けてるのではなく、確実に誰かの為で。


「…ふわふわ時間?」

どうやら、無意識に口ずさんでいたらしく。和ちゃんが曲名を言い当てる。

「もし、すんなり伝えられたら、どうにかなるのかな?」

自分でも吃驚するくらい、その声は愁いを帯びていた気がする。

「もしかして、誰かのことが好きなの?」

あれ?和ちゃん、動揺してる?
いつも一緒な私だから分かる。声、少しだけ震えてる。

「そういうことなら、相談は無理かもだけど、話くらいなら聞けるわよ?」

なんか平静を装おって、無理して笑ってるし。勿論、私だから気が付くレベルで。
ねぇ、そんな反応されると期待しちゃうよ?
そう思うと、何か吹っ切れた。

「好き過ぎて困ってるの」

「そんなんだ。相手って
もしかして、軽音…」

「和ちゃんが」

軽音部の誰かって聞こうとしたんだろうけど、それを遮って私は、はっきりと言った。
ちょっと卑怯かもだけど。今なら、玉砕でも、冗談で済ませられる。

「…」

「…へ?」

いつもみたいに、やんわりとかわされると思った。なのに、和ちゃんは目を見開いていて。

「えっと…冗談じゃなくて?」

数秒後、ようやくそう返した。

「本気と書いて、マジだよ」

瞬間、和ちゃんの頬は、真っ赤に染まった。

「えっと…」

そして、何だか言葉に詰まってる。
クールな彼女らしからぬ、しどろもどろな感じに。

ちょっと待って。
何その可愛い反応。
なんですか。OKってこと!?

「ねぇ、和ちゃん」

「え?何?」

明らかに動揺してる。

「抱き締めていい?」

とか言いつつ、返答なんて待たないで、私は和ちゃんに抱き付いた。でも、抵抗はない。
普段より速い鼓動が聴こえる。
彼女が紅くなってるのは、夕焼けの所為じゃないって、確信した。

「ねぇ。お返事、聴かせて?」

耳元で囁くと、彼女は一瞬ビクリと震えた。
ダメだ。可愛い過ぎる。

「唯の好きって、どういうレベル?」

自分を落ち着かせる為か、小さな溜め息の後、そう呟いた。

「ラブの意味だよ?分かりやすく言うと、I love you」

「それ、一緒じゃない」

クスクスと少しだけ笑うと、和ちゃんは私の目を真っ直ぐ見詰める。
ヤバイ。さっきまで可愛いかったのに。今度は格好いいとか反則だよ。

「私も、唯が好き。分かりやすく言うと、愛してる」

やられた。
破壊力抜群の告白と、想いが通じ合ったという安心感から。全身の力が抜けて、倒れるように彼女に凭れ掛かる。

「ちょっ…唯?」

「ごめん。力抜けた」

折角、想いが通じ合ったというのに。ロマンもへったくれもあったもんじゃない。

「全く、しょうがないわね」

呆れつつも、和ちゃんの顔は綻んでる。

告白が冗談で済まされなかったから。明日からも、貴女の傍で笑えると思ったら、私の顔も綻んだ。
いや、恋人関係が結ばれたのだから。きっと、今日よりももっと、笑顔になれる。

今はただ、幸せの余韻に浸りながら、貴女に身を預けよう。
あ、重かったらごめんね?

なんて杞憂は、優しく頭を撫でる手によって、何処かへ吹き飛んだ。
顔を上げれば、私の大好きな優しい笑顔。

なんか、溶けちゃいそうだよ。
例えるなら、甘くてふわふわなマシュマロみたい。

あぁ。
幸せって、きっとこういうことなんだね。


End
























あとがき
初の駄文は唯和。
この二人のなんだかんだで分かりあってる雰囲気が好きです。
 

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