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□君がプレゼント
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誰もいない筈の住み始めて数ヶ月のアパートの部屋の扉を開けると。
パァン、と小気味のよい音が響く。
「和ちゃん、誕生日おめでとうっ」
驚いて目を丸くしていると、頭に降り注ぐクラッカーから飛び出した紙吹雪。
「…唯」
「へへっ、サプライズ大成功」
上機嫌に此方に歩み寄り、抱き付いてくる唯。炬燵に入っていたのだろうその身体は、寒空の下を歩いて帰ってきた私には、堪らない程暖かかった。そして、そのまま唇を奪われそうになって―。
「待って、うがいさせて」
慌てて止めた。帰ったばかりで手洗いうがいをしていないから。唯は不機嫌そうに唇を尖らせているけれど。
「風邪、引きたくないでしょう?」
そう言うと、大人しく引いて―くれるのではなく、手洗いうがい中、後ろにぴったり引っ付かれた。お陰でうがいしづらいったらない。
「うがい終わった?じゃ、行こっ」
うがいが終わると、ぐいぐいと炬燵の方へ引っ張られる。
炬燵の上には、幾つかの料理と二人分のケーキ。
「そういえば、誕生日なんてすっかり忘れてたわ」
「ふっふっふ、そうだと思って、折角だから驚かそうと思って待ってたんだ〜」
「私がすっかり忘れてて夜遅くまでバイトしてたら、どうするつもりだったの?」
「…あ」
考えてなかったのね。
「いいのっ、そうはならなかったんだから。さ、食べよ食べよ〜」
そして、唯が作ってくれた料理を頂いてみると。
「美味しい。腕、上げたわね」
料理はそんなに難しいものではなく、シンプルなものだったけれど。
以前作ってくれたものより、しっかり味付けしてあり美味しかった。どや顔でなければ、もっと褒めてあげたいところだけれど。
「ねぇ、和ちゃん」
それから、美味しい料理とケーキに舌鼓を打って、唯が淹れてくれた紅茶を啜りながら、落ち着いた頃。
「プレゼント、受け取ってくれる?」
唯の瞳は、ゆらゆらと潤んでいる。まさか、私がプレゼント、なんて言わないわよね。
「…てへっ」
「まぁ、貰えるものは貰うけど?」
「なぁんちゃって、本当はちゃんと準備してあっ…ふむぐっ!?」
唯が何か言っている気がするけれど、気にしないことにして。折角のプレゼントだから、存分に頂くことにした。
終わり