♪♪
□もう恋は始まっていた
1ページ/1ページ
屈託のなく笑う君が。
暖かい笑顔を分けてくれる君が。
好きなことに夢中になる君が。
この好きという感情が、恋と呼ばれるものならば。
もう恋は始まっていた。
――――――
音楽準備室へと歩を進めて行くと、ギターの旋律に混じって鼻歌のようなものが聴こえてくる。
それは紛いもなく、唯のもので、他の楽器の音も他のメンバーの声も聴こえない。
「練習中悪いんだけど」
声を掛けながら、ガチャリと扉を開くと、ソファーに腰掛けてギターを弾いていたのは、やはり唯だけだった。
「あ、和ちゃん。どしたの?」
「律、まだ来てない?」
「うん。今日はりっちゃんとムギちゃん掃除当番で、あずにゃん日直らしいから」
「そういえば澪も、今日は掃除当番だったわね」
なので、一人で練習中なのです。って、唯は得意気に言った。
「頑張ってるわね」
「えへへ〜」
今はだらしなく笑ってるけど、さっき扉をそっと開けて見た時の唯は、本当に楽しそうに、ギターを弾いていた。
最初は寂しいとも感じたけど、今は良かったと思う。
夢中になれるものを、君が見付けられたのなら。
「じゃあこの書類、律に渡しておいて貰える?」
「了解ですっ」
「…ギターに夢中で忘れないでね?」
「大丈夫だよ〜。多分」
「…多分って」
そうして、君はまた楽しそうにギターに触れる。
もしこの感情を伝えたら、きっと君の歩みの妨げになってしまうから。
この気持ちは、胸にしまっておこうと思う。
君が、笑顔でいられるなら。
好きなことに向かって、真っ直ぐ歩んで行けるなら。
例え、隣に居るのが他の誰かでも、幸せになれるなら。
私のこの気持ちが実らなくても。その笑顔を、見守られるだけで良い。
だから、幼馴染みとして。君を支えていける存在であれたらと、ただ願う。
「それじゃあ私、生徒会室に戻るわね」
「うん。わざわざありがとね」
ひらひらと手を振る唯に、軽く手を振って私はその場を後にする。
そして、扉に手を掛けた瞬間。
「あ、和ちゃん」
「ん?」
「今日、帰れたら一緒に帰ろう?」
新しい居場所を見つけてからも、こうやって誘ってくれるのを嬉しく思う。
「分かった。後でメールするね」
そう言うと、唯はとても嬉しそうに笑う。
音楽準備室から出ると、先よりも軽快なメロディが響く。
私と一緒に帰るという約束で、唯のやる気が出たのなら、喜ばしいことだ。
彼女が刻む軽快なリズムのように、少しだけ心も軽くなった気がして。上った時よりも軽やかな足取りで、私は階段を下った。
End
あとがき
シリアス目指した筈が、なんじゃこりゃな感じにorz
好きなキャラが報われない話とか、やっぱり私には無理なようです(・ω<)←
お題拝借
確かに恋だった様