ハレルヤ
□この両手は君を抱き締めるために
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会場を出ると跡部さんに連れられてリョーマと先程の部屋に戻る。部屋の窓から出口を見るとすでにたくさんの報道陣。みんな私たちが出てくるのを待ってるのかな。何もかも跡部さんに助けられてる。
「跡部さん、本当にありがとうございます」
すみませんも言うべきなのか悩んだけれど口から出せなかった。余計傷つけてしまいそうな気がして。あの記者会見の後で頭の中がパニックになってる。
「女は度胸…その通りだったな」
大きな手で頭を撫でられてるとふわりと香水の匂いがする。この人は本当に優しくて頼りになる人。だけど私はやっぱりリョーマがいいんだ。
「こいつ、俺のっすよ」
そう言ってリョーマが跡部さんの手を剥がした。そんな光景を見るのが久しぶりで思わず涙が出そう。気を抜くとリョーマと見る景色ひとつひとつに泣いてしまいそう。
「今日はここの部屋に泊まれ」
跡部さんはリョーマの記者会見を見て私も出て行くことを読んでてこの部屋を取ったのかな。きっとそうなんだと思う。だって跡部さんだもの。跡部さんが帰る時、見送りに行こうとしたらリョーマに俺だけ行くからと止められた。何でと聞く暇もなく2人で部屋の外に行ってしまった。
「こうなると思ってたんすか?」
「あーん?何の話だ」
全部分かってるくせにそう言う。ここまで分かっていたのなら力尽くでも俺のところに来ようとする名無しさんを止められたはずなのに。
「二度と泣かすな」
跡部さんはそう言って去って行く。俺はこの先一生あの人に頭が上がらない。
リョーマが複雑そうな顔をしながら戻ってきた。どうしたの?って聞いても何でもないとしか言わない。ふーんと返すと急に流れる沈黙。2人きりだと気にすればするほど緊張して心臓の鼓動が速さを増す。
聞こえてしまいそうなほど煩い。聞こえてしまえば何で緊張してるわけ?と笑われてしまいそう。どうしようと考えていると沈黙を破ったのは彼の方。名無しさんと名前を呼ばれた。
「何?」
「俺の名前呼んでくれない?」
呼ばなかったことがそんなに嫌だったのか、軽くトラウマだったのか分からない。そんな彼のために何度も何度も名前を呼ぶ。
「リョーマ…リョーマ…リョーマ…」
何度目か呼んだ時、思いっきり抱きしめられる。震えてるのは私?それとも君?
「好き、本当に好き」
抱きしめ合いながら2人で同じ言葉を連呼。少しだけ身体を離して見つめあって何言ってるんだろうねって子供みたいに笑う。名無しさんとリョーマの独特なハスキーボイスで名前を呼ばれて何年かぶりの彼とのキス。懐かしくて愛しくて幸せで涙が出るキス。
それからは何も言葉はいらない。キスよりも久しぶりに触れるリョーマの温もり。こんな時に言うのもあれだけど…と彼の手が私の手に絡まった。
「俺と、結婚してください」
「…はい…っ」
それからはずっとずっと涙が止まらなくて、何よりもずっと離れてたリョーマが近くて愛されてることを実感した。
この両手は君を抱き締めるために
(彼も少し泣いてたのは秘密)
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