ハレルヤ
□世界へようこそ。
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「準備はいいな?」
扉の前。その扉を開ければ変わる未来。跡部さんが最終確認をする。
「女は度胸です」
世の中愛嬌より度胸。それがツボに入ったのか跡部さんが喉を鳴らして笑う。そして今度は正面から私を抱きしめた。
「名無しさんのそういうところ好きだ」
本当は行くなって言いたいくらいな、と。跡部さんはこんな時にそんな冗談を言わない人。だったらそれって……。止めても行くだろ?と笑われると胸が苦しくなる。何もお返事ができない。
「向こうに行ったらあいつが何とかしてくれるだろうから任せておけ」
扉を開けてトンっと背中を押される。軽くよろめきながら心の中でありがとうとごめんなさいを繰り返した。
…彼が歩いた道をゆっくりと歩く。一体どんな気持ちで歩いていたんだろう。舞台袖から一歩出ただけで記者の誰かが私を指差した。指の方向に彼も向く。その瞬間抜群の瞬発力で彼の腕の中に包まれた。抱きしめながらも聞こえるフラッシュ音。テレビで見ていたより煩い。
「何やってんの。生放送なんだけど」
「リョーマのこと信用したから」
彼の背中に手を回す。懐かしいこの感じ。昔よりずっと逞しくなったけど彼の匂いは変わらない。
「やっと…」
「え?」
「やっと名前呼んだ」
うん、やっとリョーマって呼んだ。リョーマって呼んでいいか分からなかった。ずっとずっと遠くに行ってしまった人だと思っていたから。でもようやくリョーマと呼べる距離にいる。
「覚悟はできてるわけ?」
跡部さんに言われたときみたいに強く頷いた。怖いけどリョーマと一緒だから怖くない。
「名無しさんのそういうところ好き」
さっきも言われたセリフだってことは内緒。リョーマが私から離れて横に並んだ。するとより一層響くフラッシュ音と記者たちの声。
「越前さんがプロポーズした女性ですか?」
「なぜ断ったんですか?」
「今の関係はどのような関係ですか?」
すごい圧。会場のボルテージが上がったのが伝わってくる。飲み込まれないようにしないと一気に喰われてしまう。
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