ハレルヤ
□君から届いたラブレター
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彼が会場に入ると眩いフラッシュとシャッター音が同時に起こる。メモの準備をしている人、パソコンを開いている人、他にもテレビの前の視聴者など彼を知っている人はみんなこの記者会見で何を話すのか待っている。
お集まり頂きありがとうございますと定型文から記者会見が始まった。話す内容はやっぱり熱愛報道のこと。
「報道されている人とは話したことも会ったこともありません」
はっきりと言い放った彼の言葉に会場はざわつく。何年間も流れ続けていた報道がこの言葉だけで済むわけない。
「一度もですか?」
「玲奈さんの指輪は越前さんが贈ったものではないんですか?」
「玲奈さんは試合会場にも脚を運んでいるみたいですが?」
記者から様々な質問が飛び交う。その中で彼はひとつの質問を拾った。
「なぜ話そうと思ったんですか?」
ドキッとした。思わず隣に座っている跡部さんを見てしまうくらい。彼が何を考えて過ごしているのかわからないことが多いけれどこれは分かる。
「お前のための記者会見だろうな」
跡部さんと合致した言葉が脳内に木霊する。私のために開かれている記者会見。まるで彼と一緒に記者会見の場にいるかのような錯覚。違う、私がいるのはホテルの一室で一緒にいるのは跡部さん。
「日本に帰ってきて俺はある人にプロポーズしましたが、彼女に信用できないと断られました」
ある人って私だ。だけどそれを知ってるのは彼と私と跡部さんと柚しかいない。当たり前だけれど記者たちから声が飛ぶ。
「それは玲奈さんじゃないんですか?」
「ある人って一般人ですか?」
「ある人とどれくらい交際してるんですか?」
「なぜ信用してもらえてないんですか?玲奈さんのことがあるからですか?」
すごいな、と隣にいる跡部さんが呟いた。記者たちが口々に叫ぶから収集がつかない。彼が大きくため息を吐いたのが分かった。自分のことをそんなに聞かれるのは嫌だったよね。
「お前のためじゃなきゃやらなかっただろうな」
跡部さんがさっきから強調する私のため。何でそこまでして、って思うけど私が彼にあんなことを言ったからだ。だから記者会見まで開いて嫌なのに質問責めにされて。だけど私が一般人だからうやむやにしか言えなくて。
「彼女は一般人で交際期間は中高生のときです。アメリカに行ってから全く連絡を取ってませんでした」
中途半端なことをしたくなかったのでと私に言ったことをそのまま言った。中途半端とはどういう意味ですか?と言う記者の質問にその人を見ながらというよりもカメラを真っ直ぐ見ながら言った。
「会いたくなってしまうからです」
画面越しだけれど直接言われた気分。彼もそう思っていたって考えると胸がギューっと苦しくなる。彼も会いたいと思っていてそれでも我慢してて…。
高校卒業の時にアメリカに行くって言ったときもそうだ。私が何日も寂しくならないようにと考えて当日言ったんじゃないかと倫子さんとお話ししたのを思い出した。そしてそこで倫子さんに言われたんだ。
…名無しさんちゃんのこと大切に考えてると思うからって。
もしかすると全部私のためだったのかもしれない。連絡を取ったら寂しくて会いたくなってわがままを言って彼を困らせていた。玲奈さんのことだって下手に関わっていたらもっと悲しんでいたのかもしれない。
そんなことを考えている間にも記者たちからの質問は飛び交っている。
「これいつまで続くんですかね」
終わりが見えない記者会見。どうしたら彼らは納得してくれるんだろう。そんな時ふとひとつの考えが思い浮かんだ。でもそれだともっと収集がつかなくなってしまいそう。
「あの、跡部さん…」
「お前がいいならそうしろよ」
まだ何も言ってないのに伝わった?ポカンとしていると横から肩を抱かれた。彼を忘れますと言ったときと同じだ。名無しさんと跡部さんが小さく呟いた。一度力を入れてから私から離れていく。
「覚悟はあるか?」
その言葉に強く頷いた。
君から届いたラブレター
(画面越しのラブレター)
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