ハレルヤ

□心拍数が上がった訳
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約束の8時。私は急いでいた。先ほど跡部さんに少し遅れますとメールを打ったけど、遅れるのは少しどころじゃなさそうだ。



元はと言えば退社時間になって上司がこれも頼むと仕事を持ってきた。部下だから、部下だから笑顔で受け取ったけど。そのくせ自分はさっさと帰っていくし。お前がやれって話ですよ。
急ぎながらふと寿退社をした同僚の子を思い出す。うん、彼女の選択は大正解だ。羨ましくて少しだけ悔しい。





ようやく辿り着いたときにはすでに8時半近く。私より遥かに忙しい人が誘ってくれたのに遅れるなんて申し訳ない。入る前に呼吸を整える。


それは急いできたための息を整える意味もあるけれど、跡部さんにあの人を忘れると言った場所だから。ここに来るのはあの時以来。ほんの少しだけど胸がざわざわする。




「…よし」


ふーっと息を吐いて扉を開けた。薄暗い中静かだけど他のお客さんが楽しそうに会話をしているお店……だったはずなんだけど。


何で今日誰もいないの。お客さんどころかバーカウンターにバーテンダーさえいない。もしかしてお店自体がお休み?でもおかしい。扉は開いていたし、あの跡部さんが間違えるはずはない。そもそも肝心の跡部さんも見当たらない。遅かったから帰っちゃったのかな。




跡部さんに電話を掛けようとすると私を気づかせるかのようにガタリと音がした。薄暗い店内をゆっくりと見渡す。そして音のなる方向を見つけ、そこに人がいた。




「遅れてすみません、跡部さ……っ」








心拍数が上がった訳
(さっき呼吸を整えた意味がない)




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