クロスロード
□ワンサイドゲーム
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あんなことがあったのに次の日も次の日も、毎日が普通にやってくる。地球って周りすぎだよな。もっとゆっくりでもいいのに。
今日も一日名無しさんと話すどころか、一回も目が合わなかった。結構辛いんだけど。これがいつまで続くんだ。
「名無しさん先輩のこと好きなんすね。でも譲りたくないっす」
赤也にそう言われたのは名無しさんに告白した次の日。だけど俺は何も言えなかった。赤也に言われることくらい想像できていて、覚悟もできているはずなのに。
それ以降の赤也は俺が思っていた以上に大人で、前と変わらずに接してくれた。
「とうとう言ったんか。それで見事に玉砕」
赤也との会話を聞いていたのか、仁王にそう言われたことがある。盗み聞きかよ、って思ったけど、どちらにせよ言おうと思っていたからいいけど。
「で、どうするんじゃ」
部活の休憩中に仁王が聞きにきた。最近はずっとこれ。何度聞きにきたって俺の言葉は同じ。今日だってそうだ。
「どうするも何もないだろぃ」
「そうでもないと思うナリ。何が起こるか分からんぜよ」
テニスと一緒じゃ、と仁王が続けた。そんなのテニスと一緒じゃねぇよ。テニスは相手を倒せばいいだけだろぃ。恋愛は誰を倒したらいいんだよ。
「まあ先手を取られた段階で赤也に負けてるけどのぉ…」
「うるせぇ」
図星だから余計イラつく。俺はガムを噛もうと思ってズボンのポケットを漁った。
「あれ、ない…」
「ガムか?教室の机の中に入ってたぜよ」
「何で言わねぇんだよ」
「ピヨッ」
そっか、教室の机の中か。取りに行きたいけど行けないじゃん。今、あの教室には名無しさんがいるんだから。
「取りに行ってきんしゃい。上手く言っといてやるナリ」
溜め息を吐いた仁王にポンッと背中を押された。それは身体だけじゃなくて心の中も同時に。
「…じゃあ行ってくる」
ヒラヒラと手を振る仁王に見送られて俺は静かにテニスコートを出た。
ワンサイドゲーム
(そのままじゃ終わらない)
-continue-
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