クロスロード
□誰か世界を止めて
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『あれ、持ってきたはずの教科書がない…』
机の中もカバンの中も探してみたけどやっぱりない。最近こういうの多いんだよね。多分私の勘が正しければ、教科書の場所は掃除用具の棚の上。よく見れば教科書らしき本の端が見えている。
『美音、教科書取れる?』
「どこにあるの?」
『掃除用具の棚の上』
「無理」
…ですよね。しょうがないから自分で取ろう。本当は置いた犯人に取ってほしいんだけどね。ほら、廊下の方からチラチラ見ている女の子たち。でも証拠もないのに人を疑えないよね。
「名無しさん、何やってんだよ」
『教科書がこの上にあるから取ろうと思って』
届かないから椅子を運んでいるときにブン太に話し掛けられた。よほどおかしい人に見えたのかな。
「貸してみろぃ」
ブン太は私の返事も聞かずに何回かジャンプして取ってくれた。おお、素直に凄くて感動。あれ、でもこれって火に油ってやつになっちゃった?そして気付いたことがもう一つ。
『せっかく椅子持ってきたのに…』
「何だよ。せっかく取ってやったのに」
『あ、そっか。ありがとう』
丸めた教科書でポカッと頭を叩かれてから渡された。ああ、確かに私の教科書だ。
「それより、何でこんなところに置いてあったんだよ」
『えーっと、投げちゃったから』
我ながら下手くそな言い訳。しかしブン太は深く聞いてこなかった。助かったけど、あいつの中の私は教科書を投げるような奴なのかな。それはそれで複雑。
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