クロスロード
□昨日より今日
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『じゃあ、いってきまーす』
朝はブン太と別々に行く。あの人と一緒に行くってなったら、すごく早起きしなきゃならない。部活をやっていない私にとって、そんなの無駄だからね。
「あ、名無しさん姉ちゃん!」
いつも通るブン太の家の前。今日はそこにブン太の弟くんがいた。最近、だろぃ、って言い始めてますますブン太に似てきたと思う。
『どうしたの?』
「兄ちゃん、ガム忘れていったから届けてあげて」
はい、と渡されたのはいつものグリーンアップル味のガム。よろしくね!と爽やかな笑顔を浮かべてから、家の中に入っていく彼はきっとモテるんだろうな。まあ、ブン太には負けるだろうけど。
私は受け取ったガムを制服のポケットに入れて、学校へと急いだ。
学校に着いたのは結構ギリギリ。廊下から自分のクラスが見えたとき、目立つ赤髪も一緒に見えた。そして彼は更に目立つことをした。
「名無しさん!」
そんなに大きな声で叫ばなくても、ちゃんと聞こえるのに。ほら、関係のない子たちまで振り向いた。お陰で私は注目の的。別に彼が待っていたのは私ではないことを知ってほしい。
『これでしょ?』
ガムをポケットから取り出して手渡した。渡せば、欲しいものを手に入れた小さい子みたいに瞳をキラキラさせている。
「ありがとな!」
弟くんにも負けず劣らずの爽やかな笑顔を浮かべながらお礼。私の後ろの方から、きゃああっ!って大きな叫び声が多々聞こえた。みなさん、重症。
「朝からいちゃつくんじゃなか」
思いっきり寝起きの仁王が教室から顔だけ出した。今日も相変わらず顔色が悪い。
『そんなんじゃないんだけど』
「他人から見たらそうみえるナリ」
ああ言えばこう言い返される。仁王との口喧嘩は無限のループだ。ブン太にも何か言ってもらおうとしたら、チャイムが鳴ってしまった。
「朝からすごい騒ぎようね」
『おはよー、美音』
最近、私に本当の女友達って美音しかいないのではないかぐらいに思っている。ブン太やほかのテニス部と関わりたいからって近づいてきた人は数しれずだけど。
「さっきのでまた敵が増えたわね」
『…そうかも』
あーあ、平凡に生きたい。残念ながら、そんな願いは幼稚園の頃から叶ったことがない。
「まあ、せいぜい気を付けてね」
美音の口は悪いが、どうやら心配してくれているらしい。心配掛けないように気をつけよう。
昨日より今日
(平和だったらそれでいい)
-continue-
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