クロスロード
□愛しくて憎い君
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名無しさん先輩に会いに階段を上がる。いつもは幸せいっぱいで会いに行くのに今日の足取りは重い。いや、名無しさん先輩から丸井先輩に告白されたと聞いたあの時から僅かに重くなっていた。普通にしてたけど案外キツい。
…やっぱり振られんのかな、俺。丸井先輩が名無しさん先輩を保健室に連れて行って何があったかは分からない。だけど何かはあったと俺の直感が言っている。情けないけど意外とこういうの当たるんだ。
落ち着け、と何度も言い聞かせて名無しさん先輩が待つ教室のドアの前に立つ。これを開ければ彼女がいる。俺は覚悟を決めて教室に入った。
『あ、赤也くん。お疲れ様』
「ありがとうっす。もう帰ります?」
それはいつもは言わないこと。不安を先延ばしにしたくて言ってみた。今日が過ぎれば不安な気持ちはなくなるような気がして。
『帰る前に赤也くんにお話があるの…』
うわ、きた。やっぱり逃げらんねぇか。何すか?なんて知らないふり。実際何があったとか知らねぇんだけどさ。
あのね、と名無しさん先輩がそう切り出した瞬間、すごく怖くなった。真田副部長に殴られる怖さとかじゃなくて、失う怖さ。聞きたくない、でも聞かなきゃいけない。
「やっぱり帰りながら話しません?」
俺は名無しさん先輩の返事も聞かずに歩きだした。ちょっと、って言いながら名無しさん先輩が後をついてきて並ぶ。
「俺、今から振られるんすよね?」
歩きながらなるべく前を向いて冗談みたいに笑ってみたけど、中身がない空っぽ。名無しさん先輩は俯いて何も言わない。
「やっぱり丸井先輩に勝てなかった。結構頑張ったんだけどなー」
うん、頑張ったんだ、俺なりに。だから付き合えたんだし。まあ、もっと一緒にいたかったけど。
「名無しさん先輩は丸井先輩が好きなんすか?」
『ブン太のことを考えると無性に胸が切なくなるの…』
名無しさん先輩が思い出すかのように胸に手を当てる。彼女の心の中にいるのは俺ではなく、丸井先輩。その思いが俺に向けられたらどんなに幸せか。まだそんなことを考えている。バカみたいに未練がましい。
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