クロスロード
□突発的衝動
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階段を一歩上がる度に、どくん、鼓動が聞こえる。別に今から名無しさんに会いに行くんじゃない。教室に忘れたガムを取りに行くだけ。そう言い聞かせても心臓はうるさい。
教室の前まで着くと俺の緊張は最高潮。教室に入るだけなのにこんな緊張感は初めてだ。
『あ…』
名無しさんがいた。いや当たり前なんだけど。そういえば久しぶりに話したのか。というか、あからさまにそんな気まずいって顔すんな。
「ガムを取りにきたんだよ」
言い訳なんかじゃなく事実だ。ほら、机の中にあっただろぃ。
「じゃあな」
『あ…っ』
さっさとこの場を立ち去ろうと思ったのに名無しさんが何か言いたげに声を出したから、立ち止まった。
「何だよ?」
『ちゃんとこの前の返事をしようと思って…』
その言葉を聞いた瞬間、足に力が入らなくなった。全身で聞きたくない、と叫んでいる。だけど逃げないのは俺のプライド。どうやら天並みに高いらしい。
『私、ブン太のことそういう風に見たことないし…赤也くんと付き合っているから…』
ごめんなさい、と名無しさんが続けた。
わかっていたんだ、最初から無理なことぐらい。それを覚悟した上で言ったんだから。だけど今、俺の目の前にそいつがいる。
『ちょっと…っ!ブン太!』
俺はいつの間にか名無しさんを抱きしめていたらしい。腕の中に閉じ込めれば、名無しさんの力なんかじゃ簡単には開かない。それなのに意地でも出ようとする名無しさんが癪に障る。
「…うるせぇ」
俺のその言葉で名無しさんは何も話せなくなった。それは怒った俺にビビったわけではなく、俺が名無しさんの唇を塞いでしまったから。手だったらまだセーフだったのに、唇で。
「…やだっ!」
ドンっと突き放された。…身体だけでが突き放されたって言うより、距離も心も全部。
名無しさんがバックを持って教室を出て行った。俺はきっと追いかけることも許されない。もっと言えば、想うことさえ許されない。
突発的衝動
(後悔先に立たず、だろぃ)
-continue-
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