。゚*.☆宝石小箱☆.*゚。

□右手で覆い隠した左手の薬指
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その日、シュテルンビルトの街は一つの噂で持ちきりだった。

『大人気ヒーロー!電撃結婚!』
『バーナビー・ブルックスJr.結婚発表!』
『ヒーローのお相手はなんと一般人女性!』

新聞の見出しは殺人事件をも差し置いて大きな文字が躍っている。
ニュースも同様だ。
街で貰って来た新聞を面白そうに眺めながら、ライアンはからかうように言った。

「人気者だねぇ。」
「――うるさいですよ。」

おめでたいニュースの当事者である彼は何故か正反対に不機嫌極まりなかった。

「あらら?こんなおめでたい日なのにご機嫌ナナメなわけ?ジュニアくんは。」
「やめてください。その呼び方。朝から記者に追い回されるし。電話はうるさいし。良い迷惑ですよ。」

朝から家を出るのでさえ、一苦労だった。
紳士なバーナビーには少し珍しく、荷物を乱暴に投げると椅子へと身を投げた。

「んで?お相手の一般人女性は〜?」
「あぁ。彼女なら仕事です。」
「は?」

大袈裟に声を上げたライアンに、バーナビーは眉根を寄せる。

「何か問題でも?」
「いや、大有りデショ?マスコミに追い掛け回されてんじゃないの?」
「大丈夫でしょう。僕がマスコミをひきつけてる間に
出たはずですから。」

その言葉に、ライアンは大袈裟に首を振る。

「あのなァ。ジュニア君はメディアなめすぎ。知らねぇぞ?今頃、酷い目に遭ってても。」
「――ちょっと電話して来ます。」







右手で覆い隠した左手の薬指




「――あ〜…。つっかれたぁぁぁ!」

白夜は出勤するなり、死んだように椅子へ倒れ込む。

「先輩?おはようございます。朝からどうしたんですか〜?」
「ちょっとね…。」

朝から酷い目に遭ったのだ。
バーナビーが何も考えずに結婚するなんて言うから、朝から彼のマンションの前にはマスコミが張ってるし。
相手が一般人だからなんて彼らには関係ないのだから。

「あ、先輩!!見てくださいよ、これぇぇ!」

朝からテンションの高い後輩に辟易しながら、白夜は顔を上げる。
目の前に広げられた新聞にはやはりバーナビーの結婚のニュースが踊っていた。

「――はは。」
「私、バーナビ
ーの大ファンだったのにぃぃ!相手がブルーローズとかならともかく一般人女性って許せない!!」

目の前にその一般人女性がいるよと思いながら、白夜は声を上げた。

「ヒーロー同士がくっついたら毎日マスコミの餌食になるんじゃないの?」
「それはそうですけどぉ。」
「はいはい!仕事!始めるよ!」
「は〜い!」

パンパンと手を叩けば、いつもの一日が始まった。











「――出ない。」

何度もコールするが無機質なコール音のみで彼女が応答する様子はない。
時計を見れば既に就業時間を過ぎていて、バーナビーは苛立ったように髪を掻き揚げる。

「お〜っす。バニー、どうしたんだ?」
「虎徹さん。――いえ。お早うございます。」
「それよりお前、見たぜ?これ!白夜ちゃん、もう仕事辞めたんだな?」
「え?」

質問の意図が分からず、バーナビーが首を傾げる。
その様子に虎徹は嫌な予感がした。

「おい、バニー。お前まさか白夜ちゃん、仕事に行かせたんじゃないだろうな?」
「はい。行きましたよ?」
「バカタレ!早く迎えに行って来い!マスコミの餌食になるぞ!」
「え?」

いまいち意味が分か
っていないバーナビーに、虎徹は珍しく怒鳴るようにして彼を蹴り出した。
















「すみませ〜ん!」
「あ、は〜い!」

品出しをしていた白夜は声を掛けられて、振り向く。
するとそこには大勢のマスコミとカメラが駆けつけていた。

「え?!」
「白夜さんですよね?!バーナビー・ブルックスJr.さんとのご婚約おめでとうございます!」
「今のお気持ちを聞かせてください!」

夥しいフラッシュに目がチカチカとしながら、白夜はぐらつく視界の中やっとの想いで何とか立っていた。

「え?!先輩がバーナビーの相手?!」

プライバシーってなんだろうと場違いな事を思いながら、白夜は言葉を探すがどうにも上手い言葉が見付かりそうになかった。
かと言ってこのままだと店に迷惑が掛かるし、余計な事を言えばバーナビーに迷惑が掛かる。
思わず下を向いてしまえば、じわぁっと涙が浮かんで来る。
幸せになりたかっただけなのに。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
――相手がヒーローでなければ、こんな事にはならなかったのだろうか。

「どっか〜ん!!」

 

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