。゚*.☆宝石小箱☆.*゚。

□二人だけの秘密だったから、それを恋と呼ぶこともしなかった
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「さらばだ、白夜。」


愛しい顔が哀しそうに笑う。
それが何故だか無性に辛くて白夜は必死で手を伸ばした。


「嫌よ!行かないで、司馬師様!」

「お前はもう私の手を離したのだろう。」

「違う、私は!」


その手を掴もうとした瞬間、後ろから急に腕を引っ張られた。


「ーーお前の行く場所はこちらだ、白夜。」

「曹丕様…!」


そちらに気を取られた瞬間、もう一人の男はその場を離れる。


「待って…!ーー子元様ぁ!」









二人だけの秘密だったから、それを恋と呼ぶこともしなかった






「ーー白夜、大丈夫か?」

「へ、あ?」


惚けた頭で辺りを見回せば、そこは自分の部屋だった。
少し離れた場所では、子桓が不審そうに眉根を寄せていた。


「子、桓?」

「他に誰がいるのだと言うのだ。ここはお前と私の家だ。」

「あ、うん。そう、だよね。」


寝汗を掻いているらしく、べたりと貼り付いたシャツが酷く気持ち悪かった。


 
「ーー魘されていた。夢見でも悪かったのか?」


そっと子桓の手が白夜の頬を撫でる。
その冷たさが今はとても心地良く感じた。


「分かんない…。覚えてないけど、何か哀しい夢だった。」

「そうか。」


曹丕と呼ばれたあの男が、子桓に見えた気もするけれど曖昧で思い出せない。


「ーー白夜、今日の夕飯は何が良い?」

「え?」


唐突な言葉に、白夜は目を丸くする。
その様子が気に入らなかったのか、子桓の機嫌が急降下したのが分かった。


「何だ、その返事は。まさかお前、今日が結婚記念日だと言うのを忘れた訳ではあるまいな。」

「え?あ、いや!覚えてるわよ、勿論!やっぱイタリアンかな!」

「ふん。では6時にお前の会社まで迎えに行く。残業になるなよ。」

「は〜い。」


白夜はふるふると頭を振れば、あの夢を忘れるように起き上がった。
旦那である子桓がいて、私は今生きている。
それで良いじゃない、と。
誰にとも分からぬ言い訳を考えながらいつもと同じ朝を過ごした。


*****


「あ、白夜先輩。おはようございます。」
 
「元姫ちゃん。お早う。」


エレベーターで出会った後輩は、つい最近結婚したばかりの新婚だった。


「そう言えば、先輩。今日転勤で新しい部長が来るの聞かれました?」

「え?そうなの?知らない。何で元姫ちゃんは知ってるの?」

「内緒ですよ。主人の兄なんです。」

「えぇ?!世間て狭いのね。」


苦笑しながらフロアに着けば、そこには既に噂の人物がいるらしくどよめいていた。


「まさかもういるのかしら?」

「あぁ、そうみたいですね。義兄は無駄に顔が良いので…。」

「まぁ元姫ちゃんの旦那さんのお兄さんならそうだよねぇ。」

「先輩の旦那さんには負けますけどね。」

「ありがと。」


クスクスと笑いながら人波をかき分けて行けば、中央に黒髪の人物を見付ける。


「あ、いたいた。お義兄さん!」


元姫の声に、男が振り向く。
その瞬間、白夜に何とも言えない衝撃が走った。


黒い髪、黒い瞳。
ーー私はこの男を知っている。

全身に稲妻が走ったように固まったままの白夜も一度だけ驚いたように目を見開く。
けれどもすぐに男は平静を装った。


「ーー元姫。彼女は?」
 
「チーフの白夜先輩です。お義兄さんの直属の部下に当たるわ。」

「そうか。いつも義妹が世話になっている。子元と呼んでくれ。」

「子、元…?」


差し出された手を握り返す事もせず、白夜は酷く紡ぎ慣れたように感じるその名前を呼んだ。


「ーー宜しく、白夜。」


何かが始まろうとしていた。


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⇒⇒⇒⇒

御礼文♪

 
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