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□君にアリガトウ
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例えば、甘い口車。
切れ長の瞳。

いつまで経っても慣れない、
と言ってしまえば、これまでどれだけ一緒に過ごしてきたんだか、と自分で自惚れてしまう。


お前が包帯を巻くのを止めた日。
俺は痛々しくて目を開けてはいられなかったのに。
あいつは、


「目を逸らさないで。君にだけはちゃんと見ていて欲しいんだ。目先の現実を、見るように…」


なんて。
よくわからない事を言い出した。
真実だとか、現実だとか、運命だとか。
そんな言葉、幾度となく飽きるほど聞いてきた。

なのにお前の口からそれを聞くと、なぜか。
きゅう、と胸が苦しくなった。


なんとも言えない喪失感。
もう俺に。
失うものなんて何も無いと思っていたのに。


雷の鳴る夜も。
雨に濡れながら走った日も。
一人で過ごす時間でさえ。
お前と出会ってから、
えらく俺の人生は狂わされたものだな。

気がつくと、いつもお前が隣にいてくれた。
心淋しくなった夜は、お前が抱きしめていてくれた。
好きだよ、と囁いてくれた。
お前と。
ぬくもりを、共有しあって。
涙をぬぐって、
一緒に生きたい、と。


思えば。
俺はお前にもらってばかりだったな。

そしてまた、



「アルヴィス君、結婚しよう」



ああ。
胸がいっぱいになる。
出来れば俺もそうしたいんだ。

でも自分の奥から沸き出てくるほんのわずかなプライドがそれを許さない。
羞恥心も自尊心も、すべて捨ててしまえたら。

『幸せになる』資格を、
この手に掴む日がきたら…。










好きだよ ファントム。


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