小話

□高さこ
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また組頭が、おかしな暇つぶしを始めたと、
小頭の山本がため息をついていたのは、
つい先日のことだ。

戦場で出会った、忍術学園の生徒に何やら肩入れをしているらしい。

あれで存外、子供が好きなお方なのでなんということも無いと、
高坂陣内左衛門は気にもとめていなかったのだが、
どうやら度合いが違ったと気付いたのは、矢羽根で「水筒ふたつ」と指示された時だった。

カワタレトキ城との会談に向けて、会場整備の最中だというのに、
御執心の生徒が見えたと聞いたとたん、
「ちょっとよろしく〜」と出て行ったのはいつものことなのだが、
ドクタケとかち合わないようにさせたり
、井戸の水を汲むのに注意をうながしたり、あげくに水を汲んでこいだ。

「組頭……」

山本と一緒に、高坂もため息をつきたくなる。
高坂の苛立ちに、配下の気配もぴりぴりとしはじめた。
タソガレドキ忍軍はみな、
頂点に立つ雑渡昆奈門に心酔し、忠誠を誓っている。
雑渡のすることは間違いないと思っているし、
異を唱えることなんて夢にも思っていない。

彼らは。

組頭に意見をできるのは、ただ二人。

ナンバー2である山本と、腹心の高坂のみだ。



「ほら、陣左」

この子たちだよー。
雑渡は機嫌良く、大中小のこどもを腕に抱いて、高坂の前に突き出した。

曲者にがっちりホールドされた子供たちは、
目をまるくして顔を引き攣らせている。

「お気に入り、ですか」

「そう。保健委員さんたち」

「善法寺くんだけ、じゃなかったんですか」

「んーふふふ、みんな可愛くてねぇ」

腕の中に収まっているふわふわした赤髪の子供と、
ふくふくしたどんぐり眼の子供は、
なんだか諦めたように半笑いだが、
その真ん中に収まっている黒髪の子供だけは、青ざめて硬直している。

つぶらな瞳が限界まで見開かれ、
薄いくちびるは一文字に結ばれて、なんだか痛々しいぐらいだ。
おそらく雑渡は、それもわかってからかっているのだろう。

「こなもんさぁん。左近先輩はなしてあげてくださぁい」

よじよじと雑渡の背中を登ってきた、
物怖じしない子供が、「怖がってますよぉう」肩の上でぺしぺし二の腕を叩く。

変な子供ばっかりだと、高坂は左近と呼ばれた子供を見た。

青ざめていた顔にはかっと血が昇って、変な色になっている。

「うるさいっ!伏木蔵っ。誰が怖がってるっ
て」

あはー、すごいスリルゥ〜。と言いながらするする下りた伏木蔵は、赤髪の子供にひっついた。
こうして並んだ四人の子供と、
すこし離れた所にいる善法寺伊作を見比べて、
高坂は左近と呼ばれた子供だけ、毛色が違うことが気になった。
なんというか、痩せぎすな子供だ。

ほかの保健委員の子供は、みんなふくふくとしている。
子供らしくぷっくりとした頬に、ころころとした体形。

さすがに伊作はころころとはいかないが、肉付きもよく健康そうだ。
表情も柔らかく穏やかそうな子供ばかりなのに、
左近だけは眉をつりあげて、ぎりぎりと引き絞っているようだ。

この子供は、ちゃんと飯を食えているのだろうか。


顔色が白いのは、栄養が回ってないのかもしれない。
首など、片手で握りこめるようではないか。
制服をひっかけている肩は薄い。
年下らしい伏木蔵と赤髪の子供の方が、まだがっしりとしている
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