出撃ゲートから現れた彼女を見たブレンダンは、いつも冷静な表情を、さすがに驚きに変えた。 「どうした!?」 彼が驚いたのも無理はない。 何せ彼女と来たら、「ボロボロ」と言うのが一番妥当な有様だったのだ。 服はかぎ裂きだらけで所々無惨に焦げているし、肌も火傷や擦過傷が目立つ。 いつも艶やかな黒髪も、服や肌と同様に焦げて縮れて、部分的に鳥の巣のようになってしまっていた。 出撃ゲートから現れたということは、つまり彼女は今までアラガミの討伐に出ていたということだ。 アラガミと戦えば、全くの無傷で帰投出来ることの方が希だ。しかし、受ける傷の多寡は、ゴッドイーターの腕如何によって違ってくる。 ブレンダンの驚愕の理由はそこにあった。 始めてミッションに同行した時こそ、無闇に突っ込んでいっては敵の攻撃を喰らいまくっていた彼女だが、ブレンダンとの訓練と実戦を積み重ねたことで、最近は本当に頼りになる腕の持ち主に成長していた。 そろそろ二人での訓練も終わりだな、と彼女の成長ぶりを嬉しく思いつつも、ブレンダンは何となく寂しい気持ちを抱えていたのだ。 それなのに。 その彼女の、このボロボロっぷりは一体どうしたことなのだろう? 「あ……ブレンダンさん……ただいまです」 ブレンダンの誰何に、始めて彼がそこにいたことに気付いたという様子で、マシロはのろのろと、項垂れていた首を擡げた。 いつも、大人しいけれど17という年相応の元気さを持った彼女の顔が、今は酷くやつれているように見えて、ブレンダンは心配を募らせた。 「挨拶はいい。それよりも、あんたのその格好は一体なんなんだ?」 「あは、は。ちょっと……やられちゃいまして」 だるそうに笑顔を作ったマシロは、よろよろと足を動かして、ゲートの目の前の張り出しに設置されたミーティングスペースのソファに歩み寄る。 そうして、体を投げ出すようにして、彼女はそこに座り込んだ。 はぁ……と、長い溜め息がミーティングスペースに吐き出された。傷が痛んだのか、優しげな眉をきゅぅと顰めたマシロ。 「……大丈夫なのか?」 「あ、はい。大丈夫です。そんなに大きな怪我はしていませんから」 「なら、いいが……今日の討伐対象はそんなに手強い相手だったのか?」 「はぁ……まあ、手強いと言えば、そうかもです」 はっきりしないマシロの返事に、更に問いを重ねてようやく、彼女の受けたミッションが廃寺でのクアドリガ討伐だったと聞き出したが、ブレンダンの疑問はますます深まるばかりだ。 クアドリガ堕天ならともかく基本種を相手に、彼女がここまで傷だらけになるとはどうしても思えなかった。
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