珈琲

□63触れた指先から続いて、
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「このくせっ毛って、」

ぴょん、と左右に広がる髪の毛。
いくら触れてもそれはまた元に戻る。
ちょっとかたい髪質。傷んだ毛先。

「さわり心地が悪そうで、でも実は絶妙な感じがするんです」

だからつい触りたくなっちゃうんですよねぇ、と髪に触れている理由を答えた。
背の低い私が彼の髪に触れるには、ソファーに座っている彼の後ろにたつのが手っ取り早いので、ちょっとした定位置みたいになっている。


「どうせなら隣においでよ」

「まだ後ろにいます」

上目づかいで声をかけられた。これは彼の甘えでもあり、私への甘やかしでもあるのだけれど、なぜか私はそれをつっぱねてしまった。
彼は甘えるのも甘えさせるのも上手い。それは、彼の優しさというか対人関係のうまさというかなのだけれど、私はいつだってその彼の性分に助けられている。だからこそ、ちょっぴり強がってみたかったりもする。


「お前の甘えたいって気持ちなら、充分指先から伝わってるよ」


彼は体ごとこちらへ振り返り、指先が私の髪に触れる。
彼曰く、私が彼の髪に触れるのは、それを欲しているから。けれど、言葉にできないから、態度に出している、らしい。
そのように理解されていたことが、嬉しくて、照れくさくて、悔しくて。
私は彼の髪の毛をぎゅっと掴む。


「ちょっと、抜けちゃうからきつく掴むのやめてちょーだい」

「生え際怪しいですもんね」

「まださんじゅう!」

「もう31、じゃないですか?」


軽口を叩き合いながらお互いの髪に触れる。距離は縮まる一方だ。
お互いの唇が触れると同時に、ただ髪に触れていただけの指先が私の頭を撫でる。
その手の優しさは私の体から緊張と力を奪っていく。



「もう、十分甘えさせてもらいましたよ?」

「ん、もうちょっと」


彼の手は止むことなく続く。

私だって、彼の頭のてっぺんから足の先まで触れたいと思う。
ねぇ、だからそのためにも。


「間のソファーが邪魔なのでいったん手を離しませんか?」


私たちはどちらかが触れてしまえば、もう止まらないようだ。

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