短編

□キミ色に染めて
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「この髪キライ」

突然あなたが吐き捨てるようにそんなことを言うから驚いた。
長い水翠色の髪を憎らしげに睨んだあと小さなため息がこぼれた。長いまつげを伏せてどこか憂いを帯びた顔も綺麗だと場違いな考えが頭をよぎる。

「どうしてですか?俺は好きですよ、ミクさんの髪」

なるべくやんわりと聞いて様子を伺ってみるが、恨めしそうに俺を睨む以外の反応は返ってこなかった。どうしていいかわからなくて黙っているとミクさんが俺とは反対方向にそっぽを向いてしまった。どうやら彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。

「……レンくんが羨ましい」

「え…?」

ぽつりと聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いたのが耳に届いた。ゆっくりとミクさんの方を見ると今にも消えそうな悲しげな表情をしていた。
 思わず手を伸ばして触れようとしたけど、あと数センチのところで手を止めた。もしも、このままミクさんに触れてしまえば本当に消えてしまいそうで怖くなったからだ。
そんなはずはないのだけれども。

「私の髪は、緑色でしょ?でも、レンくんの髪は綺麗な黄色。見てるだけであったかくなって、元気になれて……」

そう言いながら優しい手つきで俺の髪に触れる。
 初めて会ったときもこんな風だったっけ…。そのときはガッチガチに緊張して、挨拶するだけで精一杯だったのを覚えてる。ミクさんに挨拶しにいったときになにも言わずに頭を撫でられたのに面食らった。でもそれで一気に緊張がほどけていった。
今考えると恥ずかしいことなのかもしれないけどどこか懐かしさがある。
この撫でられることに抵抗はない、と言えば嘘になる。まるで男としてちっとも見られていないように感じるから。けど心地よくないわけではない。リン以外にミクさんが撫でてる姿を見たことがないのがあるからなのかもしるないけど。なにより俺自身、安心できる。
けれど今のミクさんは不安定の塊のように感じるのはどうしてだろう。

「私の髪は見ててなんにも感じない。ううん、誰も元気にしてあげることができない私自身が役立たずだから、なんにも感じない」

急にポロポロと泣き出してすがるように俺の服を掴む。

「……なにか失敗したんですか?」

こういうときは核心をついたほうがいい。わざと遠回しに聞いたところでミクさんの性格上吐き出しにくい……と、俺は思う。少なからず俺から見たミクさんは遠慮してしまう傾向がある。自分よりも他人の方を優先させすぎて我慢したり自分を押し殺したりしてるのをよく見る。
だからはっきり聞かないとなかなか言い出せない。

「どうして、わかるの?」

「ミクさんが変なこと言うからですよ」

「だって……」

「俺は毎日ミクさんから元気もらえてますよ。じゃなかったらこんな風に一緒にいませんよ。それとも、俺だけじゃ不満ですか?」

わざとおどけたように言うとブンブンと頭をふって俺を見る。
不安の色は表情から消えていた。

「レンくんって、不思議。私のこと全部わかっちゃう」

「そんなことないですよ、わからないことだってたくさんあります。だから知りたい。ミクさんのこともっと知りたいんです。真剣に言ってますからね、これ」

「ありがと」

いつもの優しい笑顔が向けられる。つられて俺も笑う。こんな風にいつも頼ってもらえたらいいのに、なんて思う。

「でも、レンくんも私のこと頼ってもらえたら嬉しい」

「……努力します」

苦笑いをしながらミクさんを見るとまた不服そうな顔をしたけどそれでいいんだと思う。だってほら、また俺の好きな優しい笑顔を見せてくれるから。
いつまでもこの笑顔に包まれていたらいいなと、つい平和ボケをしてしまう。それも悪くないと思う俺はつくづく幸せなのだと気付かされるこの日常はかけがえない宝物だと胸を張って言える。
どんなときでも貴女さえいたら乗り越えられる、と。
いつか伝えれるようになりたいと願うんだ。
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