短編

□白馬の王子はひとりでいい
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 いつ見ても彼女の周りには人が集まる。
 それは彼女自身の人柄を表しているようにも見え、俺には敵がこんなにもたくさんいるんだぞと言われているようにも思えてくる。
 今だってそうだ。手を伸ばせば届きそうな距離に君はいる。でも……

「ミクちゃん、これ新発売のお菓子なんだって」

「あ、これアイスと一緒に食べたらおいしかったよ」

「あんたいつもアイスばっかね。でも確かにいけるわね。ほら、ミク食べなさいよ」

「私はこちらの物が気になっていたのですが…、どうでしょうか、ミク?」

「拙者も気になっていたのでござる。ミク殿、是非食べてみてはござらんか?」

「ちょっと〜、そんなにミクに食べさせてどうすんのよ。ミク、食べるよりさ、新曲の練習しよ?」

 …まだ、ここに住んでる4人はよしとしよう。けど、なんでグミやがくぽがいんだよ!!
 てか、新曲!?
 マスターから何も聞いてねぇぞ、おい。
 ミクさんを囲むようにして異様な光景を見せつけられつつ、平静を保とうとした。
 が、しかし、リンの行動でその俺の努力は意味がなくなった。

「ミクちゃ〜んっ!!」

「ひやぁっ!?」

 目の前で、リンが、ミクさんに、抱きついた。
 まだマシだ。が、次の瞬間、
 ミクさんに、キスした。
 もちろん、唇にではない。頬だ。
 けど、おい、ふざけんなよ。いくら女同士だからって許されるもんじゃないんだぞ。
 ていうか、何顔赤くしてんだよ、ミクさん。
 相手はリンだぞ。
 きっと俺の顔は青くなっていたんだろう。
 リンが俺の方をみて底意地悪く笑った。
 “レン、ざまぁ”
 口パクでもすぐにわかった。
 調子こいてんじゃねぇぞ、リン。何が“ざまぁ”だよ。ミクさんは俺の恋人だぞ、おい!!!!
 ……なんて言えるわけもなく、密かにリンと睨み合うだけしかできない。
 どれだけ俺はヘタレなんだよ……。
 自分で自分にむかつく。

「わぁ〜、リンうらやましい〜!!あたしもし〜ようっと」

 ………………はい?
 グミ、今なんて言った?
 って、おい!!??
 何ミクさんにキスしようとしてんだよ!!!!

「お前ら、いい加減にしろやっ!!!!!」

「きゃぁっ、レンがキレた〜」

 わざとらしくミクさんに抱きつくリンとグミを引っ剥がしつつ、睨むと小馬鹿にされているように笑われた。
 そうだよ、俺はガキだよ。ヤキモチとかすぐに妬くよ。独占欲とか強いよ。
 それのどこが悪いんだよ!!
 なんか文句あるか!!!!
 無理矢理ミクさんの腕を引っ張り、もう一度二人を含む全員を睨み、部屋から出て行く。
 後ろから野次を飛ばす声が聞こえたけどそんなの、どうでもいい。

「レンくん?どうしちゃったの?」

 不安げなミクさんの声が聞こえて我に返った。
 だけど、イライラした感情が収まらなくて思わずミクさんを睨んでしまった。
 ビクッと震える肩が見えてようやく自分の感情にストップがかかった。
 情けない。たった少しのことで苛ついて、ミクさんにあたるとか……。

「ごめん、俺が悪いんだ。勝手にみんなにヤキモチ妬いて……」

 ため息をひとつ零すと握っていたミクさんの手にキュッと力が入るのがわかった。
 俯いていた顔をそっと上げるとはにかんだような、くすぐったそうな感じのミクさんのかおがあった。

「……ちょっと、嬉しいかも」

「へ?」

 間抜けな声をあげてしまった俺に柔らかな笑みを見せてくれたミクさんは両手で俺の手を包み込む。
 その行動がよく理解できていない間にもミクさんの顔が俺近づいてきた。
 そのまま、キスをされると思っていた。
 が、俺の予想は外れ、耳元に吐息がかかるのでハッとした。
 
“私にとって白馬の王子様はレンくんだけだよ”

 なんて、甘い言葉が聞こえた。
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