短編

□失恋同盟
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 俺は見てしまったんだ。
 大好きな人の告白を。
 俺に、じゃなくて別の男にするのを。
 頬を赤く染めて、緊張しながら目の前の男に気持ちを伝えてる。
 けど次の瞬間、一気に顔から笑顔が消えた。
 俺にも聞こえた残酷な言葉。

『ごめん、付き合ってる人がいるんだ』

 


















 誰もいない教室。
 放課後だから当たり前か。
 ふと、あの日のことを思い出してため息を吐き出す。
 あれからミクさんは変わってしまった。
 別に極端に変わってしまったわけではないけど、笑うことがうまくできなくなっていた。
 ほとんどの人は気づいてないのかもしれないけど俺にはわかる。
 笑っていても無理に作り笑いをしてみんなに気づかれないように、あいつに知られないように必死に“普通”を装っていた。
 それを見るたびに何かが刺さったような痛みが胸の辺りでする。
 俺なら悲しませない。俺だったら幸せにさせてあげられる。そう最初は思ってた。でもできないんだ。
 俺はどうしてもあいつになれないんだから。カイトにはなれないんだから。

「あれ?レンくんまだいたの?」

 ぼーっと机と睨みあっていればどうしても俺が手に入れることができない人―ミクさんがそこにいた。

「机とにらめっこしてるの?」

 クスクスと笑いながら言うけど、ほら、また作り笑い。
 ミクさんから逃げるように俯くと足音が近づいてくる。ぴたりと音が止まったのと同時に視界の端で黒いローファーが見えた。

「最近、レンくんおかしいよね」

「別に」

「絶対におかしいよ。だって前はいっぱいお喋りしてくれたもん」

「そうだっけ」

「そうだよ。今だって返事そっけないし」

 ゆっくりと視線をミクさんに移せば頬を膨らませて俺を見ていた。
 どう返事を返せばいいか黙り込んでいると、何を思ったのか俺の隣に来てしゃがみこんだ。
 どうするのかと思って見ていると今度はミクさんが俯いた。
 そのままミクさんを見守っていると急に床がぽつぽつと濡れていく。言うまでもなくそれはミクさんの涙だ。
 肩を小刻みに震わせながら、泣いているミクさんの頭を撫でれば今まで我慢していたであろう声が漏れる。

「ご...ごめ...ん。なみ、だ....でちゃっ......」

「いいよ、泣いて。大丈夫、ちゃんと傍にいるから」

「なん、か...レンくんとい、ると、な...泣き虫に、な...ちゃう」

「そっか」

 ミクさんが落ち着くまで頭を撫でながら改めて思い知らされる。
 やっぱり、俺じゃあいつの代わりになれないんだって。
 けど、今、ミクさんは俺を頼ってくれるわけで、“友達”だから一緒にいれるんであって、それだけでいいはずなのに胸にまた針が刺さるみたいな痛みがうまれる。
 それでもミクさんの傍にいたいっていう気持ちだけは消えない。
 まあ、引きずりすぎるのも重い男みたいでいやだけど。

「わた、し....ね」

「ん?」

「フられちゃったの」

「うん」

「それでレンくんに甘えて逃げてたの」

「うん」

「サイテーだよね」

 落ち着いたのか涙も止まって俺に顔を向けて笑う。
 そんなミクさんを見て今の俺も同じなんだろうなと憂鬱になる。

「どうしたの?」

「俺も同じだなって」

「レンくんも失恋したの?」

 そう聞かれたとき話そうか話すまいか迷った。
 名前を言わなければまぁ、いいか。

「まだ告白してないけど似たようなもん」

「なんで告白しないの?嫌われるの怖い?」

「うん...ていうか、その人が別の男にコクッてるの見て玉砕した」

「そっか」

 少し寂しそうに俺を見つめるミクさんに思わず伝えそうになる気持ちを必死に押さえ込む。
 この関係は壊したくない。絶対に。
 壊してしまえばその先にあるものは目に見えてる。
 サイテーなのは俺だ。

「レンくん」

「うん?」

 ミクさんを見ると急に立ち上がった。

「同盟みたいなの組もうか」

「はい?」

 何を言うのかと思えば彼女はそんなことを俺に言って俺と向き合う。
 ふわりと久しく見てないミクさんの本当の笑顔がそこにあった。

「私とレンくんどちらかが新しい恋するまでの同盟」

「新しい、恋?」

「うん。それまでは嬉しいこととか悲しいこととかお互いに話すの」

「失恋した者同士で?」

 わざととぼけたように言えば、首を大きく縦に振ってクスリと笑った。
 二人で、か。
 お互いの喜びも痛みも一緒に感じる。
 少し前の俺とリンみたいな関係だな。
 でも...

「わかった。同盟組もうか」

「うん!よかった〜、断られなくて」

「断らないよ。で、名前とかつける?同盟の」

 そう聞けば、彼女は胸を張って自慢げに言ったんだ。

『失恋同盟』
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