短編
□見上げる空は
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ふと見上げる空。それはどんよりとしていて今の私の気持ちを表しているようで苛つく。
学校の屋上でこうして朝から空を見るのが私の日課になったのはいつからだろう。
晴れの日も、雨の日も関係なくここに来る。
別に居場所を求めてとかそんなんじゃない。
ただ、空が見たい。それだけ。
けど、毎日空は違うのに私の気持ちは毎日同じ。
まるで私だけ時間の中に取り残されて、周りはどんどん変わっていく。そんな感覚に近い。
ため息をひとつ吐いてフェンスから離れたちょうどそのとき、扉が開く音がした。
「あれ、先客がいた」
そう言って入ってきたのは金髪の男子。
愛想笑いしながら私に近づいてくる。
「どうも」
「君、だれ?」
「そんなに警戒しなくてもいいんじゃない?」
へらっと笑ってなんの悪びれもなく当たり前のように私の隣にきた。
なに、こいつ。
「あ、俺、鏡音レン。1年生の」
あぁ、噂で聞くプレイボーイか。
確か女を取っかえ引っかえしてるんだっけ。しかも年上限定のたちの悪いタラシ。あくまで噂だから信じてもいないけど。
「で、君なんでこんなとこに来たの」
「なんとなく」
にこやかに笑うその顔に更に警戒をすればゆっくりと近づいてくる。
一歩下がればケタケタと笑い始める。
「だから、なんでそんなに警戒すんの。取って食うわけじゃないんだし」
「見ず知らずの人間に警戒しない人はいないと思うんだけど」
「でも俺名乗ったよ、名前」
「どんな人かは知らないし」
「でも名前聞いた時点でどんな奴かは噂とかで聞いてんじゃないの」
「あくまで噂、でしょ」
そう言うと、今まで余裕ありげに笑っていた顔から徐々に笑顔が消えていく。
そのまま睨んでいるとフと、息が吐かれた。
「やっぱり変な人」
「は?」
何よ、初対面の人間に対して“変な人”って。別に変なことも言ってないのに。
急に私の隣からのいたかと思えば、さっきのしつこさはどこに行ったのかそのままスタスタと屋上の出入り口の方へ行く。
そうかと思えば屋上から出る寸前にくるっと振り向いてきた。
「俺と“初音先輩”って似てるかも」
「なんで私の名前……」
「有名だからね、1年の間じゃ。“屋上にすごい美人の先輩がいる”って」
「美人じゃない」
「美人だよ。ただ人を寄せ付けない雰囲気があるだけ」
なんか、むかつく。まるで私のことわかってるみたいな言い方。
そうかと思えば片手をひらひらとさせながらでていく。
「やっぱ俺、先輩のこと好きだわ」
なんて言いながら。
「変なやつ」
またぼーっと見上げれば一面雲だけだったのにちいさな隙間から青い空が顔を覗かせていた。