短編

□絡まる視線
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近頃、レンくんと話す機会がない。

話そうと思えば話せるんだけど……

声をかけづらい。

その大きな理由は彼の忙しさだ。

マスターが作る新曲をレンくんが歌うことが多くなった。

おかげで私は全然歌わせて貰えず、ちょっとした嫉妬をレンくんに抱くことがある。

とは言ってもマスターは女の人なんだけど。


レンくんは年も近いし、うちの男性陣の中では一番仲が良かったから少し寂しいけど仕方がない。











いつものようにネギジュースを飲みにリビングに行くと、ソファがあるところに楽譜らしきモノが散らばっていた。

興味本意で見てみると、楽譜には、丁寧にたくさんの線や文字が書き込まれていた。

この字は多分レンくんの字だ。



「頑張ってるんだなぁ。…新しい曲かな」



譜面を読んでいくと、バラードらしい。

そして歌詞の方は切ない恋の詩だった。

でも、マスターがバラードなんて珍しい。

それに、こんな切ない歌は初めてだよね。


マスターは明るい歌が好きな人だ。

めったに切ないラブソングを聞かない。

ただし、失恋した時は話が別なんだよね。

こりゃ、(また)失恋しちゃったかな?



「それにしても綺麗な曲だな」



床に散らばっていた楽譜を拾い集めながら食い入るように見ているとドアが開く音がして顔をあげる。



「あれ?ミクさん?」



そこにはこの楽譜たちの持ち主であろう、レンくんがいた。



「あ、それ…」

「レンくんの、だよね?」

「うん」



何故かレンくんは気恥ずかしそうに笑った。



「綺麗な曲だね」

「そう、かな」



「うん!特にこのサビのところがいいよね…って、あ……」



興奮のあまり、私の歌でもないのに語ろうとしてしまった。

それよりも、じっくりとこの歌を見ていたのを自分で言ってしまっているようなものみたいじゃない!!

は、恥ずかしい!



「そんなに気に入ったんなら聞く?サンプルだけど」

「うん、聞く聞く〜!!」

「俺の部屋にあるんだ。取ってくるよ」

「私がレンくんの部屋に行くよ。あ、もしかして入ったら嫌かな?」

「大丈夫、だと思うよ。少し散らかってるかもしれないけど。じゃ、行こっか」



正直に言うとレンくんの部屋に興味があった。

いや、歌の方もすごく聞きたいんだけど、めったにレンくんの部屋に入る機会がない……というか一度もないので是非とも見てみたい。

期待をしながらレンくんの部屋へ向かう。



「どうぞ」



レンくんに施されて中に入るときちんと整理されている部屋がそこにあった。

どこが散らかってるんだろ?

私の部屋の方が汚いかもしれないよ…。

うぅ、今度ちゃんと片付けよう。



「ん?どうしたの?」

「全然散らかってないなって思ってたの。どちらかと言えば、私の部屋の方が汚いかも」

「え、ミクさんの部屋綺麗じゃん」

「そう?」

「うん、俺の保証付き」



にこっと笑ってレンくんはサンプルを探すべく大量のCDが置いてある棚に手をかけた。

その間に近くにあったベッドに座りながらレンくんを見た。

前は可愛い弟みたいに思っていたけど、今は頼れる存在になってきている。



確かにまだ子供っぽいところはあるかもしれないけど、それはそれでいいんだよね。

むしろ、そこがいいのかも。

それにもう“可愛い”じゃなくて“格好いい”になっちゃったしね。



「あ、あった。ミクさん、あったよ」

「聞かせて〜」

「え、今?」

「うん!!ダメ?」

「そんな風に言われたら断れないって」



冗談混じりに言いながらCDプレーヤーにセットしてくれる。

やっぱりレンくんは優しいなぁ。

すぐに曲が流れてくるとレンくんが私の隣に座る。

しっとりとしたメロディが心地いい。

でも、疑問に思うことが一つある。



これ、本当にマスターが作った歌なのかな?



隣にいるレンくんの横顔をそっと覗くと、緊張した顔をしている。



「レンくん?」

「え、ぁ、どうかした?」

「なんか緊張してない?」

「えっ!?」



勢いよく私を見て驚いた顔をしている。



「ほら、よくレンくんのこと見てるから、ね?」



それを聞くと「そ、そうなんだ」なんて言ってそっぽを向いてしまった。


なんか変なこと言っちゃったかな、私。

なんとも言えない気まず沈黙が流れるなか、曲は終わりを迎えた。



「あ、ありがとう。じゃあ、これで」



急いでベッドから立ち上がって部屋を出ていこうとした時、突然腕を引っ張られた。

もちろん、引っ張ったのはレンくん。



「……待って」





いつもより低いその声に思わずドキッとしてしまった。

私を見上げるその顔は真剣で、どこか切なくて、胸を締め付けられる感覚に陥ってしまう。



「俺を見てるってどういうこと?」

「それは…」



そんな風に見ないで。

ドキドキうるさいくらいに鳴る心臓を止められなくなっちゃうよ。



「ねぇ、それ俺のいいように思ってもいいよね」

「え、いいようにって…?うわっ!?」



掴まれていた腕を力いっぱい引かれた。

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