短編
□砂糖よりも甘く
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「レーンくん」
「どうしたの?」
「えへへ、何でもない」
そう言ってミク姉は俺の肩に頭を乗せて少し恥じらうように笑った。
何、この可愛い生き物。
さっきから俺の名前を呼んでは抱きついてきたり、楽しそうに何かの雑誌のページをめくったり、こうやってすり寄ってきたりの繰り返し。
されている方の俺は、舞い上がってしまいそうな気分だ。
いや、舞い上がってマス、現在進行形です、ハイ。
思わずニヤけてしまう。
「レンくん」
「ん?どうしたの?」
「……えーとね………」
お、今までにない反応。
何かを俺に聞こうか迷ってるみたいだけど…
うん、可愛い、マル。
俺はどうやらミク姉中毒になってしまったらしい。
「…………10月31日はなんの日でしょうか?」
予想もしていなかった質問に驚く。
「えっと……ハロウィン、かな」
「正解ですっ!!」
じゃ〜ん、なんて言いながらさっきから持っていた雑誌を俺の目の前に出してきた。
表紙を見ると大きく“ハロウィン特集”の7文字。
なるほど、それで一生懸命見てたのか。
「あのね、うちじゃ毎年仮装するでしょ?」
「うん」
「でね、お菓子も作るでしょ?」
「うん」
「……だから、ね?」
「うん?」
視線を俺から外しキョロキョロとしだすとほんのりと頬を赤くさせ、もじもじと俺の服の裾を握る。
…………貴女は俺を殺す気ですか?
ヤバい、ヤバすぎ、可愛すぎる。
いや、もう脳内でいかがわしい妄想しそうなんですけど。
いや、ほんとマジで、実行しちゃいそうになるって。
………止めろよ、俺。
そんなこと考えるな!!
せっかくのいいムードをぶち壊すな!!!!
「レンくん?」
「俺はぜっっったい、ミク姉に変なことしないからなっ!!!!」
「はへ!?へ、変なこと?」
思わずミク姉の両手を掴み、叫んだ。
……つい、思ってたことを口に出してしまった。
変な汗かいてきた。
「…………で、ハロウィンのことだけど」
あ、良かった、スルーしてくれた。
「その、一緒に…お菓子作りとか、したいなって思ってるんだけど…どうかな?」
そんなの決まってる。
ハイ、即答。
「やる!!てか、やらせて!!」
それを聞いた瞬間、ミク姉がぱぁって笑った。
すげぇ可愛い。
携帯の待ち受けにしたいくらい。
「あと、もうひとつ我が儘言っていい?」
全然我が儘じゃないだろ、今の。
俺得だし。
「仮装のことなんだけど、私、今年はアリスの格好しようと思ってるの」
ちょっと待て。
まさか、俺もアリスの格好しろ、なんて言わないよな?
さすがに(毎年恒例みたいになってるけど)女装はきついぞ。
俺、14歳。
でも………ミク姉の頼みなら、覚悟決めるか。
「白ウサギさんの格好してくれるかな?」
「へ?」
「ほ、ほら、アリスと白ウサギさんってお約束…違うかな、切っても切り離せないような感じじゃない?だからレンくんにしてほしいなぁって…嫌かな?」
……………何、そのおねだりの仕方。
上目遣いに潤んだ瞳。
もう、超可愛い。
生きてて良かった。
「やっぱり、ダメ?」
「いいに決まってんだろうが!!!!」
「ひゃっ、レンくん!?」
たまらずに抱き締めた。
思いっきり手に力を入れて離さないようにした。
あぁ、もう、ほんと好き。
大好き、超好き、愛してるっ!!
そう言いたいほど、好き。
「ねぇねぇ、レンくん」
「何?ミク姉?」
「あ、あともうひとつだけ我が儘言いたいな」
「いいよ」
「ちゅーして?」
ほんとに何なの、この人は。
俺を喜ばす天才ですか!?
俺が毎日したいくらいなのに。
「目、閉じて」
そう言うと、嬉しそうに目を閉じる。
愛しい、可愛い人。
ゆっくりと俺も目を閉じて
触れるだけのキスを贈った。
そっと目を開けると優しく笑うミク姉がいて、すごく幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
「レンくん、大好き」
その言葉が嬉しすぎてもう一度キスをした。
ハロウィンのために一緒に作ったお菓子は甘くて美味しかった。
でも、それよりも甘い時間があった。
シロップより、砂糖よりも甘い時間を貴女に贈る。