あの彼方の籠

□再始動と罠
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……まったく。あんまりサービスさせないでほしいもんだよ。


「智花。……真帆たちは、元気か」

「みんな、楽しんでるといいな」


質問には答えず、逆にそう訊いてやると、智花はようやくはっとこちらに顔を向けてから、


「……ないしょです。お二人が、自分で確かめて下さい」


うっかり意志を曲げて振り向いてしまったことを恥じるように、押さえきれなくなった笑みを噛み殺すように、ゆっくりと捻った体を元に戻した。

そして、ついに。

吹き付ける雨が視界を曇らせ、滴る水が手元を狂わせる。そんな劣悪な環境の下、智花は最後のシュートを宙の上で放った。まるでそうすることが──50本全てをジャンプシュートで打つことが、奇跡をたぐり寄せるための儀式であると確信しているかのように、迷いなく。
ボールの行く末を追いかける瞳に雨水が侵入し、俺たちは一瞬だけ視力を失う。
でも、もはや何百本と眺めてきたジャンプシュートだ。
途中の軌道なんて見えなくとも。ネットを擦る音すらかき消す雨音の中ででも。
入るかどうかなんて、放たれた瞬間にもう分かってしまった。
だから多分、ボールがリングの真ん中を貫いたとき、久しぶりにぞくりと身震いしたのは、きっと寒さのせいだろう。ああ、熱めのシャワーが恋しい。

しかし、どうしたものかな。

さしあたっての問題は、いかにして智花を先にバスルームへと赴かせるかだ。
どうせまた今日も……いや、間違いなくいつも以上に遠慮して、俺たちが先に温水を浴びるよう頑なに言い張ってくるに違いないのだから。



どうやらその説得が、俺たち──長谷川昴、桐山周二のコーチ復帰後最初の仕事になりそうだった。













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