夢じゃ友達は少ない

□メイドと電波と邪気眼少女
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ようやく待ちわびたこの休日。世間一般では大抵の就労者が勤めのない自由に過ごす一日となることだろう。
そんな俺も、学生としての余暇を与えられたので前々から溜め込んでいた高揚と勢力を存分に解き放つとしよう。
何故執拗に休日の概容を語るかといえば、今日は俺にとっていつも以上に充実感を得られる一日となるからだ。
なんといっても、今日は一日限り、しかも事前予約でしか買うことのできない『鉄の死霊術師(くろがねのネクロマンサー)』通称『くろねく』の特別限定版ノンカットOVAが各地方のアニメ店舗で発売されるのである。
普段やることもなく家にに一日中引き篭る挙げ句、過度なアホ姉貴とのスキンシップを凡庸な休日として押し付けられている我が身としては、このようなイベントは願ってもない情報だった。

さて、ここで少々我が家の詳細について説明しておこう。
俺の家は代々黒山組というヤーさん集団による不動産業を生業及び稼業としており、自分でいうのも差し出がましいが黒い意味で財源豊富だ。
そして現在、組の長は我が親父である黒山刀衣で、歴代の長史上最強の統率と実力を持つと言われている。組にとっちゃよくても、俺や姉貴にしてみればいい迷惑をこうむってしかいない。
しかし組長とはいえ、その容姿は長とは無縁ともいえる程の若さで、下手すれば二十代見間違えられるぐらいの顔付きをしている。
母親の佳代も大学生の年齢層に誤認されるほどの若々しさであり、夫婦揃って究極のアンチエイジングを努力なくして成立させているのだ。
姉に至っては超のつくほど男っ気に恵まれており、気前のよさから性別問わず多くの友人を持ち、俺とは反ベクトルに日々を過ごしている。
しかし、そんな姉にも欠点は付属するわけで。
我が姉、南來(なくる)は幼少の頃から心底俺を溺愛しており、よもや姉弟以上の接触を度々試みてくる程にブラコンである。そんな過度とも断固できるコミュニケーションの内容としては、キスの強要や同きん、果ては風呂に同席ど一種のトラウマとして植え付きかけるようなものばかりである。
そんな家族に加え、組の部下までもが同居しているのだから、疲労が体内に生成されない日など一年に一日あるかないかぐらいだ。
まあ、家の外見などについては後々説明をさせていただきたい。自分としても読むひとの立場としても、身の上話は長々とすべきものではないだろうしな。

というわけで、俺は様々な意味での嬉しさを胸に抱きながら『くろねく』のOVAが発売される店へと赴いている。
自宅からは徒歩で行ける距離のため、組の下っぱの送迎の申し出は恥ずかしさも含めて丁重にお断りした。
『くろねく』に嵌まるようになった切っ掛けといえば、ネット上の動画サイトでおすすめアニメとしてトップに目立ったリンクが貼られていたのを見つけたのがそうだったか。暇を潰すに良い機会と何の気なしに一通り目に通した後には既に次の話の展開を気にし始めており、すぐにでも新たな感動をこの眼と心に焼き付けたくなる衝動に駆られていた。
今に至っては現在放送されているシリーズ三作目を毎週見逃さず録画するるぐらいに心酔している。

しかし、あまりの喜びと一刻も早く姉貴から逃れたい焦燥感のせいか予定より早めに家を出てきてしまい、いかんせんまだ店が開く時間には尚早なことに気付く。


「時間潰すのに丁度ええ場所見つけなあかんな……」


些細な独白を漏らしたところで何かが起こるわけでもないが、それでも足を運び時間を容易に浪費できる場所を探索。
普段どの目的地へ行くにも黒塗りの高級車へ半ば強制的に乗せられて送迎される身としては、自ら歩いて散策しているこの状況下に言い様の無い満足感が胸中から溢れ出してくる。

徒歩最高。明日からでも登校手段は自力にしたいものだ。
ひっきりなしに道路で排気を唸らせる車の大衆を横目にしばらく彷徨いていると、何やら時間浪費に最適な店をこの眼に捉えた。何てこと無い平凡な書店だ。


「見つかったんはええけど、そないに品揃え良さそうには見えへんなあ……地味やし」


などと項垂ておきながら店内に踏み入ると、外観から予想もつかないくらい大量の本棚が置かれ、その中にびっしりと詰まれた本が視界を多い尽くすほどに取り揃えられている。


「……なんつー数や。あんな外見の店にこないに本があるんか」


さすがにこれは驚いた。外と中での世界観がまさかこんなにも違うとは頭の隅にも浮かばなかった。この店への感想を改めさせられた。


「ほー、漫画もなかなか揃っとるやん。ほななんかオモロイやつ見つけたろか」


気になる漫画を一つずつ手に取り、気に入った漫画を見つけては一巻をそのまま読破する。
……と、しばらくして店内をまわり、眼についたのは歴史の本のコーナーだった。
たまには日本の昔を知るのも吉だろうと思い立ち、適当な本を手に取ろう
としたら、
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