夢じゃ友達は少ない
□桃太郎DENSETSU
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俺が部室の扉を開くと、部屋の中にメイドさんが立っていた。
「ぬわっ!?」
びっくりする俺に、そのメイドはぺこりと挨拶してきた。
「おつとめごくろうさまです、あにき」
……こないだ入部したばかりの楠 幸村だった。
カチューシャにフリルのついたエプロン、やけに短いスカート丈。
スカートの下から覗く白い太ももが目に眩しくて無意識に視線が下りてしまう。だが落ち着け俺、この子は男なんだ……こんなに可愛らしくて儚げな見た目でも!性別が男であることは変えようのない事実であり、こんな異性に抱くような感情を持つのは『男らしく』を目指している彼に失礼であるし、本人にとっても同性からそんな感情を抱かれたら嫌悪感に苛まれて迷惑に違いない。だから似合っているなどと軽薄に心中を洩らしてはいけないのだ。
……いやでも、ほんとにめちゃくちゃ似合ってるよなあ……。普通に可愛──やべ、早速決意がにぶってきた。
「うわキモッ、ガン見してるし……」
「俺の時とまったく同じ感想だな……」
部室にいた星奈がジト目でこちらを見ていた。
星奈の向かいのソファには夜空が座っており、小鷹は上座の椅子で溜め息を溢していた。
……やめろ、二人でそんな視線を向けるな、私の心を抉るんじゃない。
「……オホン、なんでメイド服着とるんやろか、幸村くん」
俺は痛い視線を横から受けながらもようやくツッコんだ。
「真の男に近づくための特訓だ!?」
夜空が淡々とした口調で言った。
「メイド服を着ることがどんな特訓になるんだよ!?」
身に付けている衣装があからさまに夜空の弁論とは逆方向の効果を与えていることにすかさず小鷹がツッコみを入れる。
確かに俺としてもこの格好が真の男に近づくための特訓として成り立っているのか、甚だ疑問である。
すると幸村は言う。
「夜空のあねごはいわれました。しんのおとこたるもの、たとえどのようなかっこうをしていようとも、隠しとおせぬおとこらしさというものがにじみでるものだと。このように女中さんのかっこうをしていようとも魂からおとこらしさをはっきできるようになったとき、そのときこそわたくしがしんのおとこになったあかしとなるそうです。つらいしれんですがんばります」
「またあんたはテキトーなことを……」
顔を引きつらせて夜空をにらむ俺。
「てきとうなことなのですか?」
「適当ではないぞ」
夜空が否定する。
「真の男はたとえメイドを着ていても男らしさが滲み出るもの……。想像してみるがいい幸村。黒山や小鷹がメイド服を着ている姿を」
「「そんなもん想像すんじゃねえええええ(なやあああああ)!!」」
全力でツッコむ俺と小鷹だったが、幸村は目を閉じておぞましい想像を始めてしまった。
「ぶはっ、キモ、キモすぎっ!一人でさえとんでもないのに二人はヤバすぎるわっ!」
同じく俺たちのメイド服姿を想像したらしい星奈が噴き出した。この野郎、後で覚えてろよ。男のプライドを脳内想像で貶しやがって、組のヤツにとっちめさせるぞ。
「めいど服を着たおふたりのすがた」
………………。
…………。
「ぽ」
……なぜそこで顔を赤らめるのだ幸村よ。
大の男二人のスカートエプロン姿に頬が染まる要素など俺には一つも見当たらないのだが。……あのひらひらスカートから男の筋張った屈強ですね毛の生えた見苦しい姿からどんな魅力を見出だすことが出来たのかとても不思議なものだ。
幸村が目を開ける。
「たしかにお二人は、めいど服を着ていたとしてもやんきーとごくどうの若がしらでしかありませんでした」
「メイド服を着たヤンキーがどこにいる!?つうか俺はヤンキーじゃねえ──って、あと何回俺はこのツッコミをすればいいんだ!?」
「メイド服着た極道なんか見たことあらへんわ!ほんで俺は極道についてなんも否定出来へんからやめてくださいっ!」
俺たちの抗議を夜空はもちろんモブキャラのガヤガヤという雑音を扱うようにあっさり無視した。
なんか人の扱い方が妙に上手くて腹立つなあ……こんなこと考えて夜空に感心している自分も自分で腹がたつけど。
「この修行の厳しさがわかったか幸村。お前もその領域を目指さなければならないのだ」
「はい。あにきたちのようになれるようがんばります」
「「がんばらんなくていい(んでええ)……」」
疲れた声で呟いた俺は溜め息を吐きながら適当なソファに腰を下ろした。
ていうか普通の男子は大抵メイド服着ても男らしさは出てるけどな。っていうか似合わないのが男らしさっていのはちょっと違うような……つまり、『これは魂から滲み出るものどうこうではなく幸村の容姿どうこうの問題ではないのだろうか』と俺は常々思う。
……まあ、幸村以外誰もが周知の事実なんだろうけどあえて言わないんだろうなあ。