夢じゃ友達は少ない
□Dirty sorrow on〜
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放課後、いつものように部室へと足を進める。
新たに幸村という新人が加わり、隣人部はさらに混沌とした部活に進化を遂げていることに気づいているは恐らく小鷹と俺だけだろう。
だが、そこはまだ大きな問題ではない。肝心なのは、学校にも舎弟ができてしまったということだ。それにその幸村が男になるための参考にと例の会話を録音していたことにより、同学年の三人に俺が極道の息子ということがバレてしまったのは手痛いものだ。
ふと俯いていた顔をあげると、目の前を小鷹と夜空が並んで歩いていた。
「おーい、小鷹ちゃんに夜空ー」
辺りに人がいることも構わずに俺は少し大きめの声で二人を呼び止める。呼びかけが耳に届いた二人はこちらを振り向いて、
「よう、坊っちゃん」
「お勤めご苦労だな、若頭どの」
ザワザワ……。
二人の返事の内容に周りは耳ざとく反応した。
こいつら……何故この状況でその呼び名を選択しやがった!?
「ちょ、あんたらなに言うてんねん!」
「まさか、あの人が……!?」
「嘘だろ……!?」
「だからあの一年生をパシリに……」
「俺たち、今までなんて態度を……」
ヤバい、この状況はとてつもなく緊急事態だ!
「ち、ちゃうねん!俺はそんなもんや──」
『すいませんでした!』
ザザザッ。
辺りに人はおらず、残っているのは俺と騒動の当事者である
「……すまん、悪気はなかったんだが、つい口が滑っちまって」
「これで毎日気持ちよく廊下を歩けるぞ」
「俺の学園生活が……終焉を迎えた……」
「……わりぃ」
「もう……ええねん。いろいろ言いたいとこあったんやけど、どうでもええわホンマ……」
「こんなところで油をうっているのは時間の無駄だ。さっさと部室に行くぞ」
「お前……最悪だな」
──────────
部室のドアを開くと、既に星奈がいた。
「おっす」
「うっす」
俺たちはとりあえず挨拶してみたけど、返事はない。
テーブルにノートパソコンが置いてあり、星奈はマウス片手に画面に集中している。
ヘッドフォンをしていて、パソコンからの音は聞こえない。
──なるほど、そういうわけですか。度胸あるねえ。
「肉め。私を無視するとはいい度胸だ」
夜空が不機嫌そうに言った。
「……挨拶したのは俺と黒山なんだけど。あと無視したんじゃなくてたぶん聞こえてないだけ……」
とりあえず小鷹が言ってみたものの、当然のように夜空はそれを無視してつかつかと星奈の方に歩み寄り、流れるような動きで嫌がらせを実行。
「夜空、やめたほうが……」
ぶちっ。
パソコンからヘッドフォンを引っこ抜く。
「な!?」
ようやく気づいた星奈が驚愕の表情を浮かべると同時に、パソコンのスピーカーから大音量で流れ出す音声。
『ら、らめぇぇぇぇ!そんな激しくしたら私のお●●●さけちゃうぅぅ、あ、あ、あ、キモチイイのおお!ルーカスのお●ん●んとってもキモチいいのおおおおおお!私の子宮の奥まで届いて、しゅごいのぉ!しゅごいのきちゃうう、きちゃいましゅう!オカシクなっちゃううう!ひゃあっ、なんかくりゅう、あっ、やっ、あはぁんっ、イクうう、イくッ、イくッ、イッちゃううううううう〜〜〜〜〜っ!!』
「あわわっ!」
慌てて星奈はパソコンのボリュームを落とす。
「なにすんのよバカ!」
顔を真っ赤にして涙目で抗議する星奈に、
「そ、それはこっちの台詞だ!」
珍しく顔を赤くして夜空が怒鳴り返す。
「し、神聖な部室で、な、なんという破廉恥なものを……!」
俺と小鷹もノートパソコンの画面を覗き込む。
予想通り、画面にはアニメのようなグラフィックで描かれた全裸の美少女と全裸の男が互いの肉体を交じり合わせて結合している絵が表示されていた。いわゆるエロゲ。
「星奈……お前……」
「ちょっ、見ないでよ!」
星奈は慌ててパソコンを閉じる。
「あんたがギャルゲーに踏み出しよるから、いつかはこうなるとは思っとったけど……まさかこんなに早いとは思わんかったなあ」
「か、勘違いしないでよね!?これは『聖剣のブラックスター』っていうアニメ化も決定して美少女ゲーム業界で今一番話題になってるゲームで、鍛冶屋のルーカスとその仲間たちが繰り広げる愛と感動の大冒険ファンタジーなの!このシーンは数多くの苦難を乗り越えてついに破壊神ヴァルニバルを倒したルーカスがメインヒロインの女騎士セシリアと愛を確かめ合ってる感動のシーンで、決してあんたたちが思ってるようないかがわしいシーンじゃないんだから!」
必死で言い訳をする星奈は痛々しかった。