夢じゃ友達は少ない
□舎弟舎弟舎弟舎弟舎弟
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「なんか最近、誰かに見られてる気がするんだよな……」
ある日の放課後、部室にて。
小鷹が深刻な顔でぽつりと呟いた。
「ホンマに、小鷹ちゃん?実は俺も誰かに見られとる気がすんねん」
しかし、俺もその呟きには同意せざるを得ない。なぜなら俺もここ最近妙な視線が突き刺さってくるのだ。
「ふう……」
夜空はなにか可哀想なものでも見るかのような目を俺たちに向けて嘆息し、
「はっ」
星奈はめちゃくちゃバカにした感じで笑った。
「く……」
半ば予想はしていた反応だが、それでも小鷹は悔しかったようだ。現に俺も少しイラついた。
「本当のことなんだよ」
「小鷹ちゃんの言う通り、ホンマやで?こう、なんかジーッと見られとんねん」
「そうか。それならば本当なのだろう」
憮然とした顔で食い下がると、夜空はあっさり認めてくれた。
「……あっさり信じるんだな?」
「ああ信じよう。小鷹たちが『誰かに見られている"気がする"』のが本当だと」
全然信じてなかった。
「……トイレの時とか、飯食ってるときとか、なんか妙な視線を感じるんだ」
「俺もその時間帯やな」
「それあんたらを警戒してるだけじゃないの」
星奈の推測を俺たちは否定する。
「違う。そういう視線には慣れてるからはっきり違いがわかる。そういうのは大体こっちが目を向けると慌てて逃げてくしな」
「俺の場合はみんなハナっからこっちのこと見てへんし。第一、俺無視されとるから視線を感じるのは初めてやねん」
「二人揃って悲しい生活ね」
「「うるせえよ」」
改めて言わないでほしいますます悲しくなる。
「具体的にはどういう視線なのだ」と夜空。
「……具体的……うーん……なんていうか、俺のことを観察してるっていうか、妙に冷えた感じっていうか……こっちが目を向けると消えるんだけど、目を逸らすとまたすぐに視線を感じるようになる」
「俺も小鷹ちゃんとまったく同じ感じの視線や」
「小鷹、霊弐。あんたら疲れてるのよ」
「『×ファイル』のヒロインみたいなこと言うな」
「もしくは憑かれてるのよ」
「「何に!?」」
「知らないわよそんなの。変なヤンキーと関西モドキが幅をきかせることに怒った、二十年前に死んだ番長の霊とかじゃない?」
俺は幅きかせてないと思うんだが……
「ふん、そんなわけないだろう」
星奈の言葉を夜空が否定した。
おそらく夜空も幽霊なんて存在しないものを原因と考えた星奈をバカだと思ったのだろう。
「夜空の言うとおりだ。幽霊なんて──」
「この学校は十五年前まで女子校だったからな。二十年前だと番長ではなくスケ番と呼ぶのが正しい」
「そういえばそうだったわね」
違った。ただ番長の部分をスケ番と修正したかっただけのようだ。
「ちげえよ!番長だろうがスケ番だろうがどうでもいいんだよ!幽霊なんかに取り憑かれてたまるか!」
「せやで!そないなもんになってまで取り憑くヤツがいるほどのこと俺らはなんもしてへんで!」
全力で否定する俺たちに星奈はうるさそうに、
「だったらなんなのよ?どこの物好きがあんたたちなんか観察してるわけ?」
「む……」
「えっ、と……」
言われて言葉に詰まる。
「他の不良って線は俺も一応考えたんだよ。何か心当たりないか?」
もちろん幽霊なんかじゃないし、『他の』というのは便宜上のもので、小鷹は自分が不良とは思っていない。
──にしても不良って疑惑は俺にも納得できるものがある。なんせ去年の一年間は……いや、やめとこ。
「うーん……目立つ新参者をシメてやろうなんて血の気の多い生徒の話は聞かないわね。うちの学校の生徒ってみんな大人しいから。飼い慣らされた家畜みたいに。……ある一人を残してはね」
「ある一人?」
最後の星奈が深刻そうに呟いた言葉に小鷹が疑問を抱いた。
「去年のことだ。ある時期に、『この学園に極道の子供の生徒がいる』という噂が流れたのだ。その噂はすぐに学園中に知れ渡った」
「そんなやつがいるのか……」
「そして、噂が学園中に広まってから数日たったある日。ある生徒が夜の帰り道に数十人で溜まっていた暴走族に出くわして目をつけられてしまい、取り囲まれてしまったのだ。そんな時、一人の同じ学園の生徒がやって来て目の前の数十という人数に物怖じせず堂々と一人で突っ込んでいたのだ。……その生徒はみるみるうちに暴走族を倒していき、わずか一人でそのチームを無に帰したらしい。無論、数十人を相手にしてボロボロだったようだ。──そして、助けられた生徒は衝撃的な光景を目にしてしまったのだ」
「……衝撃的な光景って?」
「ボロボロなその生徒の乱れた制服がずり落ち、その右肩には青白く光る龍の刺青が見えたらしいのだ」