夢じゃ友達は少ない

□ギャルゲヱの意味あるか……?
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ある日俺が部室にいくと、部屋の隅に20インチくらいの液晶テレビとプレステが置かれていた。
部室には俺以外の三人が先に来ていたようだ。


「なんだこれ?」


小鷹が言うと、星奈は馬鹿にした顔で、


「ヤンキーだけあって無知ね。これはテレビジョンんとプレイングステイツという文明の利器よ。電気で動くわ。あ、電気ってわかる?」

「未開人か俺は!?俺が聞いてるのは、なんで部室にこんなの持ってきたかってことだ」


ベタなツッコみをかましたあと、質問の意を弁明した小鷹の問いに星奈はさらに見下した顔付きで答える。


「つくづく愚かしいわね。ゲームをやるために決まってるじゃない」

「私の部室に勝手に私物を持ち込むな」

「ていうかよう没収されへんかったな。理事長の娘はそんな融通もきくんか?」


不機嫌そうな顔で夜空は言って、こないだ星奈が持ち込んだティーカップにポットからコーヒーを注いで飲み始めた(ちなみにポットも紅茶を淹れるために星奈が持ってきたものだが、夜空が勝手に出来合いコーヒーを入れてしまった)。


「なんでわざわざ部室でゲームを?」


モン狩の苦い思い出が一瞬よぎったのか、小鷹がジト目で尋ねる。


星奈は得意げに醜い脂肪で詰め込まれた胸を反らし、


「星奈は得意げに醜い脂肪で詰め込まれた胸を反らし、」

「あんた心の思考が駄々洩れ……あんなクソゲーじゃなくて、ちゃんと部活に役立ちそうなゲームを見つけたからわざわざ持ってきてあげたのよ。感謝しなさいクズども」


クソゲー呼ばわりかよ……。
面白いのに、モン狩。だから俺と小鷹はあれから二人でクエストを進めている。


「黙れ肉。コーヒーが不味くなる」


淡々と言ってコーヒーを飲みながら夜空は星奈を放置して文庫本を読み始めてしまった。


「ちょっと!せっかく用意してあげたんだから人の話を聞きなさいよ!」


涙目になって抗議する星奈に夜空は舌打ちして顔を上げた。


「あたしが無知蒙昧な馬鹿キツネと使えない下っ端ヤンキーと意味不明思考の関西モドキの代わりに用意してあげたのはこの──って聞いてよ!」


読書に戻る夜空にまたも星奈は怒鳴る。
意味不明思考の関西モドキというのは俺のことか。


「あたしが用意してあげたのはこれよ!」


星奈が得意げに取り出したのはゲームソフトのケースだった。
パッケージには数人のアニメ調の女の子が描かれている。


「……『ときめいてメモリーデイズ7』?」


夜空が星奈からケースを受け取り、タイトルを読み上げた。
さらにパッケージを裏返して淡々とそちらも口にする。


「……大人気美少女恋愛シミュレーションゲーム『ときメモ』待望の最新作びっくりびっくり。合計七人の美少女達と仲良くなってバラ色の学園生活を送ろうびっくりびっくりびっくり」

「『!』(エクスクラメーションマーク)まで律儀に読む必要なくね?」

「あくまで強調の意味で使っとるだけやからな」


とりあえず夜空にツッコむ。
まあ、大体これがどんなゲームなのかは見た瞬間理解できた。
俺はやったことないけど、要するに女の子を手中に納めることを目的としたゲーム……つまり『ギャルゲー』と呼ばれるジャンルのゲームだ。


「ゲームのお店に行ったらたまたま見つけたのよ」


星奈が言う。


「モン狩なんかよりよっぽどこの部の活動に相応しい内容でしょう?」

「……たしかに、他人と会話する練習になるかもしれないな」


真顔で夜空が同意した。


「シミュレーションって書いてあるからそうかもしれんが……それって男向けのゲームじゃないのか?たしか女の子向けのやつも出てたと思うけど。美少女じゃなくてイケメンと仲良くなるってやつ」


たしか『乙女ゲー』だったか。
字面的にはギャルゲーと同じような意味になってしまいのだが、この『乙女』とはプレイヤー自信のことで、ようするに女の子向けの恋愛シミュレーションゲームだ。


「ハァ?」


星奈は呆れた顔で小鷹を見て、本気で不思議そうに返答する。


「男なんかと仲良くなってどうすんの?」

「……さいですか」

「小鷹ちゃん思い出してみいや」


こいつ、男子生徒には人気があり、数多の下僕を従えているからか男友達というのはあまり必要がないようだ。


「ま、あたしみたいな神にゲームごときが役に立つとは思えないけど、キツネや小鷹に黒山みたいなカスはこれでせいぜい対人能力を鍛えるといいわ」


別に俺としては普通に話しかけることできるし、小鷹のような強面や夜空みたいに無愛想なやつでもない。
だとしたら、俺には人とのコミュニケーション能力は少なくともこの部では一番のはずだ。なんだ、俺なかなかまともな奴じゃん。


「そんなこと言ってどうせまた自分だけ家で何時間もやり込んでるんだろう?これだから肉は……さて、割るか」
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