夢じゃ友達は少ない

□面倒ごと
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これで何回目だろうか。意識が遠退き、油断したらすぐさま視界が閉ざされてしまう……。

これは……そうか。おれはもうすぐ…………し──


「グゴァ〜……zzZ」

「暢気にイビキをたてるとは素晴らしい限りだな黒山〜……!」

「あ、しぇんしぇー。もう少しでよだれ垂れそうやから待っとってや」

「それを待つことがお前意外の皆にどんなメリットがあるのか答えてもらおうか?」

「みんなが俺の笑顔に胸打たれる」

「ああ、そうだな……お前の寝顔を見た先生はとても胸が打たれて吐き気をもよおしたぞ」


つまり、先生は俺の寝顔を拝んだことによってあまりの気味悪さに胸に衝撃を受けて吐き気が沸き起こってきたらしい。


「そんな先生!俺のキューティー寝顔に堕ちない女子はおらへんよ!?」

「現実を見ろ。こんな説教をしてるのにこっちに頭を向けてるやつなんか一人もいないぞ」

「もー!みんなそないに恥ずかしがらんでええんよぉ?」

「…………お前はもう少し自分の立場というものを認知した方がいいと思うぞ」

「そうですよねー。やっぱりクラスの人気者じゃなくて世界の人気者であることを自覚せなあかんよねー……」

「…………もういい。授業に戻るぞ。え〜……、──」

「……今日もええ一日やな」


窓際に席を構える俺は空を見上げながら気のままな授業を過ごしていた。
──始業式。不覚にもクラスの生徒全員を失笑させた俺の特技は、逆に俺を孤独の道へと追い込む忌まわしき足枷となってしまった。
小、中学時代。あんなにも称賛され、俺の友達作りの武器として愛用していた声真似はいつの間にか諸刃の剣へと変化を遂げていた。
そんなお陰で俺、黒山霊弐は絶賛ぼっちをそれなりに楽しく味わっている。なんだか人に無視されるという感覚が珍しいからなのか、辛いとはこれという程は感じない。恐らく自分が真性のマゾなんだと最近そう解釈するようになった。
さて、こんな風に呟いてばかりで勉強の方が厳かになりがちだが、心配や不安などを抱く必要は全くご無用。

そう、俺は天才だ。

どこぞの世紀末救世主物語に出てくるキャラを意識したわけではない。俺はとにかく天才なのだ。
まず、この聖クロニカ学園の入学試験から去年の学期末の俺の順位は…………“1位”だ。と言っても俺だけではなかったが。確か、かし……何だっけ。名字の二文字しか覚えてないや。
しかもその成績は一つもミスが見受けられない全教科満点での合格通知が手渡された。無論、入学式での代表挨拶を頼まれたが、もう一人の1位に頼んでくれときっぱりと依頼を断った。俺は上から人を見下ろすのが嫌いだから壇上には上がりたくなかった。それに、あの挨拶は心にも無い上っ面だけの文面を淡々と口にしなければいけないので、考えただけで虫酸が走る。
何にせよ、勉強という事柄において俺が思案することなど何も無い。ノートを写そうが写すまいが通知表には5の数字しか刻まれないし、テストの点数もトリプルスコア意外に教師がペンを走らせる必要も無い。



















さて、四時間目の終了の鐘が鳴ると同時に俺は弁当袋を携えて学校から礼拝堂へと向かう。中を通って階段を上り、通路の横に佇むとある扉をノックしながら開く。


「うぃーす。マーちゃん元気にしとった?」

「おー!にぃに今日のお菓子は何なのだ?」

「今日は久しぶりのじゃかごりやで。しかもおまけ付きでポアロや」


扉を開いて挨拶するなり俺に抱き着いて瞳を輝かせながら見上げる銀髪でシスター服を身に纏った幼女。この子の名は高山マリア。彼女はわずか十歳ながらにして教師という一人前のポジションを獲得している。というのも、ミッションスクールであるこの学園には、教会から派遣されたシスターが何人かいて、講師として選択制の神学や倫理の授業を受け持っているからなのだ。
しかし、俺は別にキリスト教には興味がないためそれらの授業は受けておらず、マリアとの出逢いはもう少し何気ないものだった。



―回想―


ある日の放課後。俺は何気なく校内をうろつき回っていた。これといった理由もなくただほっつき歩いていた。
地に敷き詰められた煉瓦の感触を一歩一歩踏みしめ、周りの風景を目に焼き付けながら歩いていると、いつの間にやら礼拝堂の前まで来てしまっていた。確か礼拝堂の出入りにこれといった規則が無かったので、俺は何の躊躇いも持たずに扉を開けた。中はそれなりに想像通りな感じだ。
そろそろ帰りたい帰巣本能が呼び覚まされて来たので踵を返して戻ろうとすると──


ギュルルルル〜


堂内に響き渡るほどの盛大な腹の音が耳に入ってきた。しかしこれは俺が起こしたものではない。俺の腹が鳴る時間帯はきちんと決まっているのでこの時間帯に胃が食い物を求めることはまずあり得ない。気になって音源の方向に首を向けると、
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