夢じゃ友達は少ない
□プロローグっつうか顔見せっつうかツカミモドキかな
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「……なあ、これ本当に毒入ってないんだよなあ……」
「その筈です小鷹先輩……。理科のポイズンチェッカーはあらゆる毒物を完璧に検出しますから。完璧なはず、ですから……」
自信なさそうに、白衣のポニーテールに眼鏡をかけた理科が答えた。
「何だって良いから早く食べなよ小鷹ちゃん。死ぬことは多分無いだろうからさ」
淡々とした口調で踏みとどまっている俺を茶髪のショートカットをした爽やかなイケメン霊弐が急かす。
俺たちが何をやっているのかといえば──闇鍋だった。
ことの発端は数日前。
星奈が部室でやっていたギャルゲーに友達が集まって鍋パーティーをするという場面があり、たまたま夜空がそれをみて「一緒に鍋を食べるのはいかにも仲のいい友達という感じでいいな」と言った。
俺や星奈もそれには同意だった。
そして夜空は、
「友達と鍋をやるときに失敗しないように、この部で鍋の予行演習をしておこう」
などと言い出した。
週末に俺が闇鍋用の黒いスープの開発を着手したのだが、どうやら闇鍋というのは鍋から食べ物をとるときに部屋を暗くするもので、べつにスープ自体が黒い必要はないのだが、勘違いしていた。
……そして現在。
俺が苦労して開発した黒いスープはえもいわれぬ悪臭を放ち、見た目は同じ黒色でもなにかヘドロっぽい感じがする別のものに成り果てていた。
みんなが楽しそうにしていたのはスープに具材を入れる直前までで、魚介類をベースにした美味しそうな匂いが異臭に変わり始めると霊弐以外全員の顔から笑顔が消えた。
みんなでいっせいに鍋から食べ物を取るたびに、場の雰囲気が険悪化。
マリアと小鳩の年少組二人は開始十分でダウン。
特に夜空と星奈と霊弐、
「貴様が闇鍋などという頭がおかしなものをやりたいと言うから……!」
「そもそもあんたが鍋をやりたいなんて言い出したのが悪い!」
「闇鍋はあかんと思うけど、まあそもそもの鍋の提案もどうかと」
「最悪なのは貴様が持ってきたシュールストレミングだ!」
「ニシンだから味は悪くなかったわ。それに比べてマンゴーや苺だいふくは!」
「じぶんらしょーもないことでいちいち食い付くなや。端から見てて醜いでホンマ」
『黙れエセ関西人!お前(あんた)がこの食材をおすすめしてきたんだろう(でしょ)!』
「誰がエセ関西人だと!脂肪と電波のくせに!」
……こんな感じで責任を押し付け合う始末。
いつの間にか『最後まで生き残っていたやつが優勝』という意味のわからないルールが決まっていた。
そして今また、茶髪を肩付近まで伸ばした美少年──幸村が逝った。
幸いにして俺は肉団子とかこんにゃくとかまともな具材(自分で持ってきた)ばかりを引き当てて生き残ったのだが、さっきは部屋中に充満する甘ったるい不快な匂いのせいで楽園へトリップしてしまった。
味オンチの理科も幸か不幸か生き残っているがその目は既にヤバめ。
俺と理科は同時に鍋に箸を突っ込み、真っ黒にそまった何かを取り出して息を止めて口に放り込む。
……スープの味が最悪だが、具材はよかった……ただの……ただの、なんだこれ……食感からすると……ブロッコリー?
一方理科は何かヤバいものが当たったらしく、
「……理科の記憶のデータベースからこの食べ物の味に最も近いものを引き出すと……………………"消毒用エタノール"」
それっきり理科はぴくりとも動かなくなった。
「……お前まで……」
「なんや、メガネちゃんまでギブアップかいな。根性たらんなあ〜」
やっぱり闇鍋なんて、本当に気心の知れた友達同士が和気藹々とやるものだったんだ。
和気藹々などという雰囲気とはほど遠い俺たちが手を出していいジャンルじゃなかったんだ……。
しかもうちの部員どもは悪のりだけは一人前で、持ち寄った具はマシュマロだの果物だのお菓子だの絶対に後悔するようなネタばかりときた。
なぜあのとき「面白そう」などと思ってしまったのか……。
俺が後悔していると、
「では次だ……」
「わかってるわよ……」
「はよくたばらんかい雑魚ども……」
互いに脂汗を流しながら凄絶な笑みを浮かべ夜空と星奈と霊弐が睨み合う。
俺も仕方なく箸を取り、四人一緒に鍋から具を取る。
揃って口に運び、飲み込み──
「……………………ぉ……ぉ……ぉええええええええぇぇっ」
「うわっ!?」
星奈がリバースした!
それを間近で見た夜空は勝ち誇った顔を浮かべた直後に顔を蒼白にし、
「……う……………………ぉげえっ…………」
……もらいゲロ。
星奈と夜空はそのまま白目をむいて倒れた。
「うわっ、ちょ、お前らほんとに大丈夫か!?」
「はっはー!自分らは所詮脂肪と電波でしかな──ぶはっ!」
こいつらよりによってカーペットの上に吐きやがった……。