空白の一年捏造虎兎

□平穏な日々
1ページ/12ページ

「ちわ〜、鏑木酒店です!」
威勢のいい掛け声と共に、ビールケースをガシャンとたたきに置く。
「あ、こてっちゃん御苦労さま」
近くの飲食店に商品を配達に来ながら、世間話をするのが目下の気晴らしだ。
「あと焼酎とウイスキーだったよね?んじゃ、ここに置いとくよ」
「ああ、ありがとう。最近、酒屋姿がすっかり板についてきたね」
ははっ、と笑って頭に手をやる。
「もともと嫌いじゃないし、働かざる者食うべからずって家訓だからさ」
まいど〜、と会釈して残りの配達に移る。
面倒なことを考えずに、持ち前の人懐っこさで充分やっていけそうな家業が割と好きだ。
シュテルンビルトでヒーローをやっていた時は全くなかったのんびりとした毎日が、いまは愛しい。
店の配達車を運転しながら鼻歌を歌って、次の配達先に向かう。
伝票を見ながら荷台から荷物を下ろしていると、通りすがりの男に声をかけられた。
「すみません、道を教えてもらえませんか?」
「ああ、いいっスよ。どこに行きたいの?」
荷台のケースに片手をついて振り向く。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ