short story

□Beautiful World
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母がいない淋しさ、家で一人で待つ孤独な時間。
忙しい父に迷惑をかけたくないと、口にしたことはなかった。

だから珍しく父が休みの、2人で過ごす時間とか、
忙しい時間の合間をぬって来てくれる学校の参観日とか、
とても嬉しくて、たくさん話して、たくさん笑った。

笑顔でいれば幸せが来るはず、ことわざだってあるじゃない。

父が倒れてからも、学校に行って、家もピカピカにして、栄養のつく料理を練習した。
毎日病院に行って先生や看護師さんにも『直ちゃんはいつも元気ね』って言ってもらえるくらい笑顔でいた。

でも父の病気は良くならなくて、ホスピスに移動して数年がたつ。




バカ正直の神崎直、いつも元気で笑顔の神崎直。
でもそれは・・・・
―――人を信じるのは、すぐによくなるって言ってたお医者さんの言葉に縋りたいから
―――笑顔でいるのは、それをやめてしまった時の自分が恐いから
―――人に優しくするのは、困っている人を見捨てた自分を知りたくないから

鏡に映る私は歪(イビツ)で、でも自分でそれを知っている。
そんな自分に恐れずに手を伸ばせるようになったのは、あなたに出会ってから。

認めたくなかった。
ずっと知らないふりをしていた。
そのほうが楽だから。
あなたはそんな私の部分をハッキリと刺した。
その傷口から流れ出るものを見て安心した私がいた。

世界は劇的に変わらないけれど、優しいものや温かいものがたくさん見えた。
きれいなものもたくさんあった。
それを、そう認識できるようになったのはあなたのおかげ。
あなたがそこで笑ってくれるだけで、私は許されて、そして気付く。
自分に残っていた力に。

顔を上げよう。

あなたと、2人。
そこに見える世界は――――


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