【幕恋宵物語】
□石に花を咲かせたい
1ページ/10ページ
『……』
何で、こうなったのか…
思い出せないほどに深酒を過した覚えはないけれど、いつになく進みは早かった気はする
…するけど
─こんな状態になっているなんて…あり得ないっス
少しはだけた胸板に、顔を埋めた体勢のまま背中に回された腕にぐっと抑え込まれ、身動き一つ出来ないなんて…
目線だけを動かし、下から窺い見ると…柔らかく閉じた瞼と、規則的に繰り返す呼吸
……これは、どう見たって完全に寝てるっス
─な・の・にっ
何で、この腕は、ぜんっぜんっ、緩まないんだよっ!
腕の中でじたばたと必死にもがく
『ん〜…』
─っ!? お、起きた?
はぁ、これで漸く解放される…
と、安堵したのも束の間
さっきよりも更に腕に力を込められ、これは最早拘束されてると言った状態で、僅かな身動ぎも儘ならなくなってしまう
『…りょ、龍馬さんっ!いい加減起きて下さい!龍馬さんっっ!』
一旦寝付いた龍馬さんが、簡単に起きてくれないのは嫌という程知ってる
だからこの呼び掛けが、どれだけ徒労に終わるのかも重々分かっている
…でも、今の俺に残された唯一の手段は、声に頼る位しかなくて…
『龍馬さん?…ねぇ、龍馬さん!起きてよ龍馬さん!……このっ、龍馬ぁぁぁぁぁっ!!』
焦れたあまり辺りも憚らず大声で名前を呼ぶ…すると
『……ん、ん〜?…』
─っ!?
渾身の叫びが、通じた!?
期待を込めて見つめる先で俺を抱えたまま、もぞりと身体が動き
重そうな瞼がゆっくりと、薄く開く
.