めいん

□I am happy
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大体の連休には、僕の部屋に雄二が来る。

泊まりの日もあれば、夜帰る時もある。

それに、自分の家よりも居心地が良いようで。

ストレスが溜まっている日なんかはアポ無しで来たりもする。

その事に優越感を抱いているのも事実。


今日もまた、他人が呼び鈴をならす事は無いだろう時間に、音が響いた。

土曜日の夜、時間からするに泊まりかなと思う。

僕の発したどうぞ、という声を聞いてか聞かずか玄関の扉が開く。

向うには、僕の思い描いていた通りの赤が居て。


「こんな時間に訪問なんて非常識も良い所だね。この馬鹿」


夕食を作り中なのが分からない?と茶化しながらも雄二を招き入れる。


「お前に馬鹿は言われたくない。それに土産も買ってきた」


そう返しながらビニール袋を突き出す雄二。

珍しく普通の中身に、雄二が負い目を感じているのに気づいた。

別に僕は迷惑なんて思っていないのに。

寧ろ、雄二と一緒に居る時間が増え喜んで居るというのに。


「ありがと、冷蔵庫入れるね」


受け取ろうと伸ばした手から逃げる様に上へ行く袋。

むっと顔を上げれば、雄二が意地悪く笑っている。


「俺も手伝う」


そう言って自分の家の様に部屋を歩き回る。

キッチンへと向かい、手際良く冷蔵庫に中身を入れる。

その姿に違和感が無くて、逆に可笑しかった。


雄二の存在は、酷く自然に僕の世界に馴染んでいて。

僕の家のキッチンに立っている姿さえも日常に成り掛けていて。

何故か凄く満たされた気分になる。


「今日のメニューはポトフか?」


鍋の中身を確認しながら尋ねる雄二に、頷き答える。


「あと10分くらい煮て、サラダ作ってスープに溶き卵を入れて完成だよ」


ご飯はたけてるし…と答える僕に、雄二が不思議そうに呟く。


「一人分にしては、ポトフも飯も量多くねぇか…?」


独り言の様なそれは、しっかりと僕の耳に入って来て焦って弁解をする。


「あ、明日お弁当に入れようと思ってさ!」


明らかに戸惑う僕に、雄二は疑いの眼差しを向ける。


「ポトフを、弁当に入れんのか?」


僕の弁明は、逆効果だったようだ。


「そ、それは…」


二の句も出ない僕に、雄二はため息をついた。


「…はぁ、そう言う事なら先に言えよな。俺帰るわ」


少し笑いながら出て行こうとする雄二の前に立ち、何故!?と道を塞ぐ。


「隠さなくても良いぜ。姫路か島田でも来るんだろ?いやぁ、俺とした事がタイングを…」


「違うよ!!」


僕が、少し量を多めに作っちゃったのは誰かを呼んだからじゃなくて、雄二が来てくれたら良いな。

土曜日だし、もしかしたら来るかもしれないな、的な期待をしてたから…って本人に言えるか!!


否定をした後に黙り込んでしまった僕に困り顔で雄二は言葉を吐き出す。


「まぁ、お前が違うって言って、俺に夕飯くれんならそっちの方が助かるしな」


無理に理由を聞こうとせずにキッチンに戻ってくれる雄二に安堵のため息。


「雄二はサラダよろしく」


走ってキッチンに戻りながら、僕はスープをやろうと卵に手を伸ばす。


「おぉ」


ボールやお皿の位置はすでに完璧な用で、必要な物は自分で取り出す。

野菜は何を使うか少し迷っているようだ。


僕は自分の方に気を直そうと、スープへと向き直る。

沸騰したそこに、ゆっくりと溶き卵を流し入れふわふわになったら火を止める。

よし、良い感じだ。

あとは最後に三つ葉を添えて。


「机に運んでんな」


雄二の方もサラダが出来た方だ。


「了解」


と答えながら二人分のスープを持って、僕もテーブルへと向かう。

その横を再び雄二が通り過ぎる。


「ポトフ、もう良いか?」


蓋を上げながら確認する雄二に頷き、


「ご飯の量いつもと同じくらいでいいよね」


と声をかける。


「おぉ」


と答えながらポトフをとりわけ机に運ぶ雄二。

僕も雄二の茶碗と端を持って机に戻る。

最後に僕が冷蔵庫から茶を出し、雄二がグラスを二つ持って来て席に着く。


何と無くだけど、二人で居る時の僕らの指定席も決まっている。


手を合わせて、二人で声を合わせて頂きます。

一人で食べるご飯よりも、二人で、それも雄二と食べるご飯は何倍も美味しい。

そして食事中にお互いの味付けを盗み合う、それも日常。


「そういえば、今日は泊まってく?」


流しで食器を洗いながら何気なく声をかける。

その横でタオルで食器を府居ながら、雄二は申し訳なさそうに頷く。


「泊めて貰えると嬉しいが」


珍しく下から雄二に少し笑みを浮かべ、しょうがないなぁと零す。

それに合わせて雄二も綻ぶ。



「お風呂沸いてるよ」

食器を片づけ終わり一息ついてから、僕は口を開く。

僕の姿を確認して、じゃあ借りるわ、とお風呂へ向かう。

きっと僕がお風呂に入ったか確認したんだろう。

家主よりも先にお風呂には入らない。

そう言うところは律儀で、大人だ。

因みに、僕はご飯の前に入ってしまっていたので、大丈夫だ。


バスタオルや、パジャマなんかも雄二用に用意してあるし、問題は無いだろうし。

リビングでテレビを見ながら、雄二が上がってくるのを待つ。


何故此処に来るのか。

僕は極力聞かないようにしている。

理由なんて、無くても良かった。

雄二が此処にいるという事実さえあれば。

少しずつ増えて行く雄二の所有物。

それはそのまま、雄二が占める僕の割合に比例する。


僕は、凄く満たされていた。


「I am happy」

小さく零した声は、湿った世界に溶け込んでゆく。

同じシャンプーの香り。

湯気の立った雄二の体、下ろされた前髪、無防備なその口が紡ぐ。

「So am I」

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