めいん

□進まない始まり
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ぽこぽこと世界は黒に包まれて、とろとろと僕の脳は溶け始める。

焼け付くような苦しさの中で、僕は気づく。


…これは夢だ。


咽ぶような闇の中、赤色の光を放つ。

振り返れば僕の悪友、雄二がたっていた。


夢なんて現実じゃ忘却と喪失を繰り返し、心の底に埋める癖に。

夢に入れば思い出す。

自分の愚かさと罪深さを。

僕は、この場所で三回雄二を殺した。

その記憶さえも夢の幻想かもしれないけど。


この場所では僕は僕でなく、彼は彼でない。


殺めた後は、いつも些細な快感と罪悪感。

背徳も伴って、高揚は更に増す。


頚を絞める感覚が指を伝い、腕にまで達する。

脳髄が蕩けるような感覚に、僕はうち震える。


彼の目線の先には僕しか居ない。

あの赤に反射するのは僕の影。

彼の全てを僕が絞めている。

彼が最後に写すのは僕の姿。


いつも彼は抵抗しない。

手を伸ばす僕に諦めたように笑うんだ。

優しく僕の全てを受け入れるような、そんな表情で。

そんな慈愛に満ちた顔が堪らなく悲しくて、僕はやはり彼を殺める。

彼奴には自愛の方が良く似合うだろ。

僕は同情なんて求めてないのに。


そうして其を繰り返した、16回目の話。


いつもと同じ黒の世界。

水面のように揺れ動く地面。

不安定な世界の完全な気持ち。


また僕は彼を殺すのか。

ふわりと風が吹いて、彼の香りが近づく。

世界は赤色に染まり、鮮やかに僕を照らす。


最近気づいたのだ。

僕がこの場所に来てしまう理由を。

最近、知ったのだ。

僕が殺してしまうモノの、正体を。

自覚した刹那、世界は重くのし掛かる。

呑まれてしまいそうな、冷たさの中必死に手を伸ばす。

その先で触れる温かい彼の頚。

苦しさで自然と力が加わり軋む。

盗み見た彼は、やはり笑っていて。

堪らなくなって僕は口を開く。


「君の、正体は…」

「聲にしたら駄目だ。俺を殺せなくなる」


僕の言葉を遮るように、彼は言う。

それはつまり肯定と謂うことだ。

まるで殺されたいともとれる発言に笑みが零れる。


所詮、これは僕の夢。


僕はゆっくりと雄二を殺す。


彼は、僕から彼への恋心。
苦しみは、嫉妬や不安。

黒の世界は世間の目。

殺しているのは僕自身?


何れにしても、目が覚めれば忘れる恋心。

僕は僕の為に僕の心を殺す。

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