めいん

□裏返したら裏返る
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僕達の関係は大人になると同時に解消されるらしい。
僕の同意は無しに、雄二はそう決めているのだ。

大人の定義を知らない僕は、それが果て無い未来にも思えるし、明日の事のようにも思える。


まぁ、その時には何とかなるだろうと高を括っているのも事実。

思いっきり駄々を捏ねれば、何だかんだ優しい彼は絆されてくれそうだ。

だから僕は、無理にその考えを否定しようとは思っていないのに。


「良く笑っていられるのぉ…お主は」


そう言って僕の肩を叩いたのは僕らの悪友、秀吉。

いつもポーカーフェイスな秀吉の眉は、心無しか顰められている。


秀吉は僕らの関係を知っている1人で良く相談にも乗ってくれる。

口も堅いし、仁義に熱い秀吉を雄二は誰よりも信頼している。


雄二の一番は出来れば僕であって欲しいんだけどね。


「否定すればよいものを」


疑問符を浮かべるように秀吉の顔を覗き返す。

僕が、何の否定を?

何か否定しなければいけない物があったのか。

心当たりの無い僕は、秀吉の次の言葉を待つ以外に術を持たない。

そんな僕に心底信じられないと言うような顔をする秀吉。

秀吉がそんな表情をするなんて珍しい。

雄二の事になると秀吉は感情表現がストレートになるようだ。


溜め息を1つ吐き、秀吉は口を開く。


「雄二の事じゃ」


そう言えば秀吉はこの雄二の台詞を聞くのは初めてだった。

何十回と聴いた僕には耳蛸でも秀吉には違うのだ。

だからこその盛大な拒否反応か。

聞き慣れぬ言葉に気分を害したのか。


先程此処に居た僕の恋人は、置き土産に不穏な言葉を置いていった。

どういう文脈でそう繋がったのかは覚えていない。

どうせ大した内容はないさ。

そしてその後の聞き慣れたいつもの台詞。


『まぁどうせ大人になったら解消だしな。』


そのまま何処かに消えた悪友を、僕は別にいつもの事だし気にしない。

そうか、秀吉は初めて聞くのか。

そんな小さな事実に優越感。


「いつもの事だしさ」


へらへらと笑う僕が気に入らないのか、秀吉はその大きな瞳を細めた。

感情は上手く読み取れないが、空気に怒気が混じっているのが分かる。


「雄二は止めて貰いたいのではないのかのう」


僕はその台詞に盛大に吹き出す。

そんな感情奴にあるもんか。

彼奴は僕らを束ねる強者だ。

可愛い秀吉とは違い、相手は筋肉質なあの坂本雄二。

そんな乙女思考、持ち合わせている訳がないさ。

侮蔑を込めた声色で、秀吉は呟く。


「お主の何処が良いのじゃろうな…」


その台詞には、わしならもっと幸せに出来ると滲みに出ていて。

其処には嫉妬が溢れ出ていた。

そんな事を言っている秀吉には、無理だよ。


「ねぇ秀吉。

いつまで一緒に居られるのか、って謂うのといつ別れるのかって謂うの。

良く似ていると思わない?」


つまりはさぁ。

僕が子供で居る限り、雄二は僕のものって事さ。

秀吉には、あげないよ?

だって僕が大人にならなければ、僕らの関係は永遠に解消されないんだもん。

悔しい?

悔しいよね。

でもさ、其ぐらい僕も雄二が大好きなんだもん。

仕方ないよね。

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