めいん

□きみのいろ
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紅い彼の瞳には世界はどんな風に写るんだろう。

昔遊んだ色セロファンの様に世界は赤く染まるのか。

何処までも澄んだその緋は今何を映してるのか。

覗き込んだ赭、揺れる瞳の影は…

「…明久、近い」


不服と言わんばかりの不機嫌な声で雄二は僕を征す。

その声で僕の思考は一瞬理性を取り戻す。

目の前に在るのは雄二の瞳。

此処は学食。

机に乗りだし、座る雄二を食い入るように見つめる僕。

突き刺さる視線。

だがすぐに本能が逆転する。

構わず僕はその朱の観察を続ける。

困ったように細められたそれに揺れ動く人影。

鏡に写ったように鮮明な僕の姿。

ゆっくりと、瞳の中の自分と目が合う。


「雄二には何が見える?」


不意に出る質問に、紅い瞳が揺れる。


「お前しか見えないが…」


「え、プロポーズ?」


「滅べ!」


「栄える!」


そんなやり取りをしながらも、僕は赭から目を離せない。

遠くから女の子の黄色い声も聞こえたけど気にしない。

綺麗だ。

欲しい。


「触ったらぶっ殺すぞ」


その言葉でようやく自分の指が緋のすぐ傍まで来ていたことに気づく。


「え、あぁごめん…」


引っ込めた指を手持ち無沙汰に見つめる。

僕の視線から逃れた赤は溜め息を吐き、眉を潜める。

座れよ、と指差す雄二。


「何がしたいんだよ、お前は」


それを無視しながらそっと、雄二の頬に手を添えて覗き込む。

また、女の子達の黄色い声。

シャッター音…?


「雄二には世界は赤く染まって見える?」

セロファンの様に、鮮やかに。

雄二は薄く笑って答える。


「ばーか。染まってたとしても此が俺の普通なんだから、分かるわけねぇだろ」


僕も笑いながらそうか、と納得する。


「ほら、さっさと喰っちまおーぜ」

届けられたカツ丼を前に、僕は雄二から離れる。


ニカっと笑った雄二の顔が脳に焼き付く。

紅い赤い赭い朱い緋い…

世界が赤く色づいているのは僕の方だ。

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