めいん

□CALL ME
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『神童』『悪鬼羅刹』『Fクラス代表』


それは全て1人の人間を差す言葉。


僕の愛しい人は数多の肩書きを有する。

良い意味でも悪い意味でも有名な彼。

そんな彼を誇らしくも思うが羨ましくも思う。


…僕も何か肩書きが欲しい。

雄二に見合うだけの物が。





「……あるじゃねぇか。立派なのが」


「え!?なに!!」


そんな訳で早速ド直球に雄二に肩書きを貰いに来た。

無気力を絵に描いたような顔を輝かせ意地悪く笑う。

そんな様子に嫌な予感もしながら次の言葉を待つ。

僕に既に有る肩書き…何だろ。


「ほら、最初にバが付いて最後がカのやつ」


バから始まってカで終わるやつ?

バ………………カ。

バ…………カ。


「へー、僕って人にそう見られてるんだ。別に水泳得意じゃないけどね」


「……一応聞いておく。なんだと思ったんだ…」


「バンドウイルカでしょ?」


僕の答えにこめかみを押さえる雄二。

何故呆れられたのか訳も分からずハテナを浮かべる僕。


「まぁ冗談は置いておいてだ」


声のトーンが下がり真面目な顔付きになる。

雄二の表情は変わらないようでクルクル変わる。

ポーカーフェイスを保っていない時のそれは、見ているものを魅了する。

いや、魅了されているのは僕だけかも。


「冗談だったの!?」


空かさず突っ込みを入れる僕を華麗にスルーし、言葉は続く。


「お前は観察処分者って言う肩書きがあるじゃねぇか」


超不名誉なのがな。

そう言ってニヤッと笑う雄二に僕は答える。


「それはそうなんだけど、余り誇れなくない?」


そもそも呼ぶには長いしさ。

不服という事を柔らかく告げると、雄二は眉と眉を寄せ考え始める。

実はもう肩書きなんてどうでもよくなっていた。

いや、確かに欲しいけど。

それ以上に僕の事で悩んで、表情を変える彼が愛しかった。

もう少しだけ、僕の事を考えていて欲しくてわざと気に入らない振りをした。


「あとは……アキちゃんとかか?」


「それそもそも肩書きじゃないからっっ」


ていうか、そんなの大盤振るって皆に言えないよ!

僕が女装趣味の変態だと思われるじゃないかっ

社会的に抹殺される!

一息で捲し立てる僕に対し、雄二は手をヒラヒラさせて冗談だと宣う。

いや、顔が全然冗談じゃなかったよ。

僕の抗議を聞きながら楽しそうに笑う。


「雄二のみたいに格好良いのが良いんだよ」


ぽつりと溢す僕の言葉を、雄二は取り零さない。

一拍置いて、いつかの優しい笑顔で雄二は僕を見る。


「名前なんかに拘ったって仕方ねぇだろ」


分かってるよ。

解ってるけどさ。

名前が付いたからって、肩書きがあるからって何かが変わるわけでもない。

其が永遠に成るわけでもない。

僕らの関係だってそうだ。

無理矢理不格好に恋人なんて名前を付けても、永久な訳じゃない。

そこには心を縛り付ける楔だって無い。

だけどさ。

だからこそさ。

その不確かなものを確かな名前と謂うもので表したいんじゃないか。

この気持ちを証明したいんじゃないか。

何も言えなく成った僕の頭を優しく撫でる。

僕の心情を察しているようで、その手は何処までも暖かかった。

幾ばくもなく、雄二が思い付いたような顔をした。


「あるじゃねぇか、もう1つ…」


不意にまた持ち出された話題に戸惑いを隠せない僕。


「自己紹介の時のやつだよ」


またあの何かを企んだ笑顔。

自己紹介…僕、何か言ったっけ?

「ダーリンってやつ」


ダーリン…。

あぁ、野太い野郎共に呼ばれて不愉快だった…って、え?

雄二今なんて…


「もう一回言って!!」


雄二の服にしがみつき顔を食い入るように見つめる。

雄二は困惑したような表情になりながら口を開く。


「ダーリン?」


首を傾げながら伺うように発する雄二。

かっかわいいっ!

野太い野郎共に呼ばれるのはあんなに不愉快なのに。

こんなに破壊力があるとは。


「雄二、今度からそれで僕のこと呼んで良いよ」


僕のにやけた顔を不思議そうに覗く雄二がその言葉で気づく。

少しづつ肌が赤く染まっていく。

一気に羞恥心が来たようで、僕から離れその場に座り込む。

もうその全てが可愛い。


「死ね明久」


唸るような照れ隠しに、僕は微笑む。

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