めいん

□まあだだよ
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使い古された愛の言葉を、我が物顔で吐き出すのはもう止めろよ。

毎日の様に繰り返される愛憎模様に何の意味があると言うのだ。

他人に当て擦る相愛など鬱陶しいだけだろうが。


そんな俺を弱虫と意気地無しともう一人の自分が責める。



「ありがと、雄二大好きっ」


無邪気な笑顔で述べられる言葉も本当は大切だとわかっている。

この言葉の消えた刹那の絶望も容易に想像できた。

それなのに。


「あぁ、そうかよ」


返すのは素っ気ない無色無臭の味気無い言葉。

歪む明久の表情を俺の瞳は見逃さない。

明久が望む答え。

それに俺は応えない。


相手の鼓膜を意思の振動により揺らし伝える言葉と言うものがどれ程大切か。

他に愛を示す手段を持たない俺達にとって唯一のそれがどれ程尊いか、解ってる。

解ってはいた。


けれど俺の喉は錆び付いて、愛の言葉を囁こうものなら爛れその膿は脳にまで溜まり靄が架かる。

自分の気持ちを素直に伝えるなど、最後にしたのはいつだろうか。

打算も計算も無い言葉を軽んじてきた。

心の内をさらけ出すのは愚かな人間がすることだと侮蔑してきた。

それがいつの間にか本心を出せない俺の為の言い訳に変わっていた事も知っていた。


「雄二は?」


明久が不安を抱えている事も知っていた。


「何が」


俺は自分を守るため気付かないふりをする。


「僕の事どう思ってるの?」


いつもみたいにふざけた口調に隠された真剣な瞳。

俺は何処までも弱虫だから、応えることは出来ない。


「馬鹿」


察してくれよ、それ位。

不服が見て取れる顔に密やかに微笑む。

求めてくれている内は安心だ。

明久の頭を撫でてやる。

俺は狡いからそれだけで機嫌が治ることも知っている。


熟しきらないこの想い。

伝えるにはまだ早い。


もう少し、もう少し。

あと少しだけ待ってくれ。

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