めいん

□もういいかい
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声に出す事はとても大切だと思う。

個体である僕らが意識を共有する唯一の手段だから。

テレパシーとかも在るけれど、直接相手の鼓膜を揺らし音を産むことに意味があるのだと思う。

だから今日も僕は、


「ありがと、雄二大好きっ」


自分の気持ちを口にするけど、


「あぁ、そうかよ」


彼の気持ちは聞けない。


僕一人が好きなんじゃないかって不安は常に尽きない。

愛を語り合ったのは告白の時、あの震える手を握った日だけだ。


今でも鮮明に覚えている。


誰も居ない教室。

薄暗いそこに、厭に綺麗な夕陽の赭が。

上擦る聲、涙の色、雄二の台詞、愛しい始まりの記憶。


「僕、雄二の事好きなんだ」


ありきたりの文句。

有り得ない人選。


「俺も、だよ」


秘かに震える躯。

墜ちる涙。


それから僕は雄二から愛の言葉を貰ったことはない。

僕は何度も何度も繰り返すのに。


「雄二は?」


ほしいよ、その言葉が。


「何が」


分かってるくせに。


「僕の事どう思ってるの?」


でも本気で聞く勇気はなくて。

いつものように笑い半分で聞く。


「馬鹿」


察しろ、それ位と、雄二は眼だけで言う。

分からないよ、僕は馬鹿だから。

言われないと解らないんだよ。


不満げに雄二を見る僕の頭を優しく撫でる。

狡いよね。

雄二は僕の機嫌を治す方法を何でも知ってる。

そんな雄二が大好きで仕方がないんだよ。


そっと心の中で問いかける。

返事を待たずに貴方の心を捕まえて暴いてもいいですか?

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