めいん

□君の知らない物語
1ページ/1ページ



いつも通りのある日の事。

放課後のゆるゆるとした時間。

つまらなそうに座っていた雄二が突然立ち上がり言った。


「今夜、星を見に行こう」



────君の知らない物語



「お主も、たまには良い事言うんじゃな」


秀吉が嬉しそうに答える。


「雄二が星とか、」



「・・・・・・・・・・似合わない」


僕の台詞に被さる様にムッツリーニも続ける。


「普通に失礼だぞそれ」


自分でもわかっていると言う風に眉を下げる雄二。

そんな雄二に皆して笑った。


「時に、何で今日なのじゃ?」


帰りの支度を進めながら秀吉は問いかける。


「流星群が見えるそうだぞ」


携帯電話確かめながら雄二は答える。


「あぁ、なるほど」


此処から見たらさぞや綺麗に見えるだろうな。

登下校時に登るあの急な坂を思う。


「折角じゃし、姫路と島田も誘ったらどうじゃ?」


楽しみで仕方がないと言う様子で秀吉が言う。


「おお、良いと思うぜ」


案外簡単に返事をする雄二。

本当に思い付きで言ったみたいだなコイツ。

「・・・・・・・・・・カメラ用意しないと」

歪みないムッツリーニの呟き。

皆で星を見るとか、楽しそうだな。

良し、


「美波、姫路さん。僕たち今夜、星を見に行くんだけどどう?」


女子二人雑談で教室に残っていたようで助かった。

2人は顔を見合わすと、二つ返事を返した。


**



僕らは歩いていた。

明かりの無い道を。

はじめは学園から見る予定だったが、鉄人の恐怖により断念。

自然発生的に学園よりも更に奥に入った処へと変更。

思っていたよりも険しい道に女の子達は文句も言わず付いてきてくれた。

馬鹿みたいに騒ぎながら、笑いながら歩みを進める。

抱え込んだ不安や恐怖に押し潰されないように手を取り合って。

学園を出て10分ぐらいの場所。

ようやく森が開けて空が見えるところまで来た。

真っ暗な夜空を見上げた。

浮かぶ星は酷く綺麗で。

さっきまでの騒ぎは一瞬に白ける。

皆、息を飲んだ。

綺麗すぎる空に息をするのも忘れそうだった。

「綺麗…じゃの」

秀吉がポツリと呟く。

無言で首を縦に振るムッツリーニ。

雄二がその場に腰を下ろす。

それに釣られ1人また1人と座って行く。

僕は何故か最後まで立っていた。

星を一番近くで見たかったからかもしれない。

それでも美波に諭されて腰を下ろす。


不思議と会話はなかった。

皆が皆、見とれていた。

ゆっくりと時が流れる。

そんな時間が心地よかった。

そんな時、姫路さんが声を上げた。


「見てください!」


流れ星…。

其を皮切りに沢山の星が流れていく。

まるでそれが、


「星が降るようだな」


雄二が呟くように言う。

僕と同じことを思って居たようだ。


「願い事をするのじゃ!」


秀吉と美波と姫路さんは一生懸命祈り始めた。

ムッツリーニはと言うと星をバックに3人の写真を撮りまくっている。

後で3ダースほど買おう。

そんな僕らを尻目に雄二は1人寝ながら、


「来て良かったな」


なんて僕に笑いかける。

そんな時がいつまでも続けば良い。

来年も再来年も何年先も何十年先もこのメンバーでずっと居れれば良い。


届きそうで届かない星に手を伸ばす。

僕の手は悲しいほど短くて。

愛しい大切なモノには届きそうにない。

いつからだろう。

君を追いかける僕がいた。

どうかお願い。

驚かないで聞いてよ。

僕の気持ちを。


「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」


雄二が指差す夏の大三角形。

覚えて空を見る。

やっと見つけた織姫様。

だけど何処だろ彦星様。

これじゃ独りぼっち。


雄二が楽しそうに話している。

その輪に入る気には成れなくて。

僕は何も言わず空を見ている。

時々視界に入る紅い髪も。

柔らかい笑顔も、本当はずっと雄二を見ていたかった。

けれど、どこかでわかっていたんだ。

この想いは、例えゴールが見つかったって届きはしない。

そう思ったらもう駄目だよ。

楽しい筈の時間が、寂しくて堪らない。

けど泣かないで。

皆が居るから。

そう言い聞かせた。


一通り星が流れ終わって、帰る雰囲気に包まれる。

けれど僕はまだ此処に居たくて。

女の子も居るし何時までも居るわけにはいかないから皆に合わせて笑うけど。

強がる僕は臆病で。

ずっと一緒とか特別とか、興味がないようなふりをしてた。

だけど、胸を刺す痛みは増してく。

傍に居たい、近くに行きたい。

もっと雄二に触れていたい。

ああそうか 好きになるって、こういう事なんだね。


女の子達と秀吉は遅くなれないと帰った。

ムッツリーニは其を送ると言ってついていった。

僕はやっぱり帰る気に成れなくて。

雄二と二人残ってしまった。

雄二は未だに寝ながら静かに空を見ている。

何を思いながら見ているのか分からないけど其を知りたくて、横に同じように寝転ぶ。

2人の呼吸しか聞こえない世界。

高鳴る心臓。

横目で雄二を盗み見る。

真っ直ぐで優しい瞳は、星を捉えて離さない。



僕は小さく自問する。

どうしたい? 言ってごらん。

心の声がする。

雄二の隣がいい。

僕の答え。

何年も何十年先も雄二の隣に居たい。


「翔子にも、見せてやりたいな」


雄二が優しい顔で言う。

真実は残酷だ。

僕は微笑む。


「行こうか」

立ち上がり雄二に手を指し伸ばす。

「おお」

しっかりとその手を掴み返す雄二。

その温度に心が冷える。

言わなかった。

言えなかった。

言ってしまったら、二度と戻れない。


あの夏の日。

きらめく星。

今でも思い出せるよ。

笑った顔も。

怒った顔も。

大好きでした。

おかしいよね。

わかってたのに。

君の知らない。

僕だけの秘密。

夜を越えて。

遠い思い出の君が。

指をさす。

無邪気な声で。




君の知らない物語@supercell

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ