めいん

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某国には、とある有名な双子の姉弟がいた。

隠密、つまりはスパイとして敵国の情報を匠に操る英傑。

姉は頭脳として弟を補佐し、弟は手足となって姉を導いた。

姉には弟にない優秀な脳と思考が備わっていた。

そして弟には姉にない特異な演技力を所持していた。

二人は二人で一つだった。

双子という特性上、共に行動をし、共に生きた。

姉は弟を要し、弟は姉を慕っていた。


木下姉弟。

その名前はいつしか、千里を駆ける如く広まり、また誉を得た。


それなのに、と双子の片割れ、木下秀吉は溜息を吐いた。

男は退屈で仕方が無かった。

二人が隠密として活躍したのはもう遠い過去のこと。

平和な世の中に仕事はめっきりと減って姉は国王の第一秘書として。

秀吉は門番として新たに手に職つけた。


始めはそれも面白かった。

隠密と言えど暗殺を担当する事もある為、戦いには慣れていた。

一対一なら負けること等ない、という自負もあった。

盗賊が訪れようとも簡単に蹴散らし、敵国のスパイだって倒してきた。

それ故に。

今、この城の門を武骨に叩こう物など居なくなってしまった。


誰も来ない城の警備程、つまらないものはない。

姉上はまだ良いかもしれないが、秀吉は酷く退屈だった。


昔は良かった、と遠く憂う事もあった。


戦争が好きなわけではない。

戦争を擁護したい訳でもない。

戦争がどれほどまで凄惨で酷たらしいか。

前線で戦った彼が理解していない筈は無かった。


けれども。

彼は戦い以外の生き方を知らない。

幼きより隠密として仕込まれた彼が、それを失った今時間を何に当てるべきなのか。

自身が一番分からなかった。


だから、そんな秀吉の前に彼が訪れたのは一つの運命だったのかもしれない。


(・・・坂本、雄二)


先ほど出会った赤い髪を思い出し、秀吉は反芻した。

もしかしたら、いや、もしかしなくても。

姉上は彼を気にいるだろう。

そうなれば、共に城で働けるだろうか。


秀吉は、人目で彼の強さを見抜いた。

敏捷性は自分の方が勝っている。

だが、力では必ず押されるだろう。

雄二の瞳を見たとき、秀吉は己の脊髄に悪寒が走るのを感じた。

自分と同じものの匂いを感じた。

詰まりは、人殺しの。


(・・・いや、人殺しとは言い過ぎかもしれぬ)


彼に感じたのはもっと純粋な強さだった。

いくつかの修羅場は超えて来てそうだったが。

それでも、人を殺す程の経験はしていないように思えた。


だからこそ、秀吉は勝てると思った。

その無垢さ故の弱さに漬け込めば、彼を楽に倒せてしまうだろうと。


それをしなかったのは、己の好奇心。

もっと、彼を知りたいという欲求がどこかで生まれていた。


余った時間を何に使うか、秀吉はもう決めていた。



第三講堂へ歩む雄二の後ろ姿を眺めながら秀吉は思った。

彼が講堂の中に姿を消すのを確認し、門に戻る。

相変わらず無機質で静観な景色。

だが、今までとは少し違く見えた。



(ワシは、あの赤い髪の男と共に居りたい)


その思いが、恋と呼ばれるものだということに気づくのは、もう少し先の話。

物語は、未だ続く。

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