めいん

□さぁ、世界を始めよう
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旧約聖書のアダムとイブ。

世界で初めての人類、神より造られし創始者。


人間の祖となる彼等は、世界で初めてのつがい。


なんて、倫理で習った事を反芻してみる。


メシアとかヤハウェとか、その辺はもうごちゃ混ぜだけど。


何故かアダムとイブだけは、心の片隅に置いてある。


なんだかロマンティックだと思ったんだ。

壮大な恋物語に思えたから。


人類は2人しか居ないのだから、結ばれるのは必然かもだけど。


「もしも、の話だけどさ」


僕が突然話し始めると、雄二は閉じていた目をゆっくりと開き、眠そうに僕を仰いだ。

いつもと変わらぬ土曜の夜。

僕が新発売で買った話題のゲームを徹夜で楽しむため、雄二は泊まりに来た。

床にスナック菓子や炭酸飲料がところ狭しと牛耳っているのも、もう慣れた風景。


その残骸に埋もれて、雄二はコントローラーを手に睡魔と戦っている。


「もしも、だけどさ」


先ほどと同じ言葉を繰り返す僕に、雄二は面倒臭そうに目を細める。

いや、もしかしたらただ眠いだけなのかも知れないが。


残骸を少し移動させて、雄二の隣を陣取る。

フローリングが肌の露出した部分にふれ、冷たくて心地がいい。


なんだよ、と言いたげに口を開いた雄二のコントローラーを奪い取る。

画面に映ったコンテニューの文字に、薄く笑いながらゲームの電源を落とす。


眠いのなら眠ればいいのに。

焦らなくても、ゲームなんかいつでも出来るよ。

今日でなくたって、明日だって明後日だったって、雄二の場所は此処に有る。

いきなり電源を切った僕に、雄二はぎょっとした顔をする。

何すんだよと抗議しているのを尻目に、寝室から持ってきたタオルケットを渡す。


「で、なんだよ」

渡されたタオルケットにくるまりながら、雄二は僕に尋ねる。


僕も、雄二のよりも少し厚いタオルケットと共に隣に横たわる。

いつもは決して一緒に成ることの無い目線が、この時だけ絡み合う。


「もしも、僕と雄二が世界で二人だけになったらさ…」


あり得ない幻想をわざと口にしてみる。

雄二の瞳がゆっくりと閉じて行く。

とうとう眠さに勝てなくなったのか、人が話をしているのに失礼だ。

なんて、思いながらも僕は微笑む。

手を伸ばして、雄二の体を引き寄せた。

引き摺られて少し不満そうにしながら、雄二は僕の頭を撫でる。

抱き枕の様に、雄二の体を包み静かに宣う。


「僕と雄二がアダムとイブになろうよ」


そう、二人で。

人類の最初で最後のつがいになろう。

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